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110.焦る気持ち1
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あれから。
あの晩以来。
セバスティアンは毎日のように電話をくれた。
蒼のことを心配してくれているのだろう。
『圭って誰?』
いつも問われることだけど。
言えない。
言っても仕方がないからだ。
彼と圭との接点があるとは言えないが、ないともいえないし。
それに、別段、そこまで明かす必要はないと思っていたからだ。
16歳で幼い子供だと思っていたが、彼は立派な大人になろうとしていることは見て取れた。
自分の16歳だった頃を思い返すと、勉強をしたり、友達と遊んだり、あんんあ大人びた子ではなかったと思われる。
そうなのだ。
こんな大人の世界に身を置いているから大人びるのだ。
なんだかそれがいいのか悪いのか。
子どもの頃の楽しさがないと思うと不憫な気持ちになるのも事実だった。
だけど、すごく心配してくれる気持ちはありがたい。
なんとなく心が折れそうになっているのは事実だ。
奥川にすべての仕事を開示するように指示をした後。
彼女は蒼の指示を忠実に守った。
こうしてみると、彼女が隠していた仕事は、圭に関係するであろう人が関わっている仕事ばかりだった。
章の指示なのだろうか?
そうだろうな。
章に今度逢った時に聞いてみようと思った。
彼女は、蒼の部下である以上に、章の忠実なる僕だからだ。
章と彼女の関係は分からない。
もしかして不倫とか!?
そんな低俗な勘繰りをした時期もあったけど、そういうものではないようだ。
彼女は素直に、章を上司として尊敬しているようだった。
今回のセバスティアンの仕事もそうだった。
企画書を眺める。
出演者の名前を何度も見返した。
ショルティ。
ピゼッティ。
そして。
圭。
その名前を活字で見ただけで心が震えた。
関口圭。
会いたい!
落ち着かせようとしても、無理だ。
心はざわざわして、嵐のように荒れている。
会いたい。
一目でいい。
顔を見たい。
だけど。
怖い気持ちのほうが大きいのだ。
会ってどうする?
どうなる?
あんな突然の別れ。
圭が許してくれるなんて思ってもみない。
もう自分になんか愛想を尽かしているに違ない。
圭は自分のことを探してくれているのだろうか?
奥川がシャットアウトしているせいなのか。
それとも、本当に知らんぷりなのか。
ここ数か月。
圭が自分のことを気に掛けてくれているとか、星音堂の人たちからアプローチがある気配もない。
もう呆れられているに違いない。
結局。
怖気づいてしまった。
話をしてから、彼女は「蒼さん、この案件はどうしますか?」と聞かれるが。
自分からこの仕事は奥川に任せることにしてしまった。
意気地なし。
怖いのだ。
1年もの間、きちんとお別れもしないでお別れになってしまった恋人に。
いまさら、どんな顔で会えばいい?
怖くて仕方がない。
そう思った。
今日は、奥川と別行動。
彼女はドイツに飛んでその演奏会の打ち合わせ。
自分はフランスで別件の打ち合わせが山ほど待っている。
忙しくしてくれているのは彼女の取り計らいなのだろう。
きっと、圭のことを考えないようにって。
『行きますか?』
運転手の男に声をかけられて、蒼は山のような資料を抱えて出発していった。
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