アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
110.焦る気持ち5
-
「参ったわ……」
滅多に弱音を吐くような女性ではないのに。
奥川は控室としてとっていた部屋でため息を吐いた。
人に土下座をされるのなんて初めてだ。
おろおろと狼狽えてしまった自分が恥ずかしい。
そう、彼女にとったら、土下座をする人の恥ずかしさよりも、された人の恥ずかしさのほうが大きく上回っていた。
必至に食い下がってくる圭。
真剣にされたら、心が迷ってしまう。
知っている。
蒼の側にいるからこそ。
蒼と圭が、どんなに強い絆で結ばれているか。
知っている。
暇なし圭の写真を見たり、パソコンで検索している彼を知っている。
蒼が、圭のことを思うとき、切ない顔をしていることを知っている。
奥川が星音堂で見ていた蒼はいつもにこにこだったのに。
こっちに来てから、にこにこする機会はほとんどない。
切ない顔ばかり。
辛そうな顔ばかり。
何気ない顔をしているこっちの身にもなって欲しい!
奥川はそう思う。
そして、今日はその極め付けが来た。
そこまで二人をつなげるものって何なのだろう?
恋愛をあまり経験していない彼女には理解できないこと。
だけど、二人が本当に心底、お互いを欲していることは分かる。
心もロボットみたいだったら楽なのに。
辛い。
辛い仕事だった。
章にも言われた。
本当に辛い仕事だと。
だけど、ビジネスで尊敬する上司からの頼みだ。
仕事に人生をかけてきた奥川にとったら章はすべて。
彼の頼みなら、断るわけにはいかないのだ。
彼女のプレッシャーをかけるもの。
もう一つある。
ブーブーっとマナーになっている携帯が鳴る。
またか。
彼女は、スーツのポケットから携帯をとりだした。
相手はいつもの男。
1日に何度も日本から掛かってくる電話だ。
「はい。……しつこくてって。もう慣れましたよ。今日は、お話し。聞きましょうか」
彼女は苦笑して、携帯の男の声に耳を傾けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
837 / 869