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111.父と息子1
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「日本から社長がじきじきにやってくる」ということは、ヨーロッパで、少し羽を伸ばしながら仕事をしているスタッフにとったら緊張以外のなにものでもなかった。
事務所はばたばたとしている。
蒼は大きくため息を吐いた。
一番、憂鬱なのは自分なんですけどーッ!っと大きな声で叫びたいくらい。
肘をついて章のスケジュールを眺める。
今日は10時に事務所に到着し、その後は、羽根田が押しているセバスティアンのCD録音の業務を一緒に見学してもらうことになる。
セバスティアンがおとなしくしているといいが……。
いつもの調子だと、頭が痛いことになりそうだ。
音楽家は自由奔放なほうがいいと話す章だけれど。
……まあ、16歳である。
大目にみてくれることを願おう。
また、彼の音楽家としての将来性などについてクレームが来ると、蒼の責任になる。
将来性のないヴァイオリニストに投資するほど、余裕がある状況ではない。
財閥と言っても、昨今の世界情勢を見ると、日本の経済状況は芳しくない。
社会貢献、イメージアップの理由だけで、こういった事業を積極的に展開していけるほどの余裕はないのだ。
そのあたりも心して、取りかかっている姿勢を見せないと。
駆け出しの彼。
せっかくバックアップをする契約を結んだのだ。
1年もしないでそれが破断になってしまったら、彼の音楽家人生を傷つけかねない。
圭を見ていてもわかる。
デリケートな人材なのだ。
章がセバスティアンを気に入るようになんとかしてあげないと。
それが終わると昼食をはさんで、午後からは奥川と現在の仕事の内容についての精査だ。
章がいらないと言えば、その事業は途中でも中止になるだろう。
奥川とは昨日も夜中まで打ち合わせをした。
なんとかなるかな?
だけど。
夜が問題!
章は忙しいので、明日の早朝には日本に帰っていく予定だが。
今晩は親子水入らずで食事をすることになっているのだ。
父親といっても、少しあっただけ。
結局、蒼はここに来ていて、章は日本にいる。
親子と言っても、大したコミュニケーションもないし。
親子の実感なんてない。
「はあ……」
「チーフ。そんなにため息を吐かないでくださいよ!!」
一生懸命に走り回っているスタッフの一人が蒼に冗談をかます。
今日は、奥川が章を迎えに行っているので、無駄口をたたいても怒る人もいない。
蒼は苦笑する。
「ごめん」
「おれたちだって緊張しているんですから」
「そうだよね。……ね!無事終わったらお疲れ様食事会しようね!」
4、5人いる事務室はわっと声が上がる。
「もちろん、おごりですよね?」
「奥川さんは抜きですか?」
彼女がいると羽が伸ばせないとでも言いたいのだろう。
「残念でした。彼女抜きって訳にいかないでしょう」
「そりゃそうっすよね」
若い職員が笑う。
奥川の下で働くのは大変だろう。
彼らにも苦労かけっぱなしだ。
彼女抜きって言うのは珍しいことで。
室内がどっと盛り上がるのを見て、蒼は星音堂を思い出した。
みんなどうしているだろうか?
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