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111.父と息子4
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章はにこやかにやってきた。
セバスティアンとも冗談をいいながら話をしていた。
昼食時。
章が彼を気に入ったかどうかわからないので、緊張していた。
だけど。
章は上機嫌だった。
「あの子。いいね。音も良さそうだし。将来性もある。ヨーロッパでイメージアップを図るにはいい人材だね。二人とも、よく見つけたね」
蒼と奥川は恐縮して座っている。
事務室の応接室での食事は窮屈だ。
蒼の自宅のお手伝いさんたちが作ってくれた和食のお弁当。
いつもだったら、おいしく食べているところだけど。
今日は緊張して喉も通らない。
「それにしても、このお弁当はすごいね。どういうこと?」
「それは、あの」
蒼が言葉を濁すと、奥川が笑って答える。
「蒼さんが、どうしても日本食を食べたいといわれまして。毎日、こちらのお手伝いのものたちに、日本食の作り方を教えてきた成果です」
「蒼が?」
「えっと……。そうなんです。どうしても食べたくなっちゃって」
「それはそうだね。我々は日本人だ。慣れ親しんだ食事じゃないと、元気でないよね」
煎茶をすすりながら、彼は笑う。
「でも、あの子は扱いにくいんじゃないの?」
「まだ16歳ですし。若いです。才能もあるから、回りもちやほやしていたみたいですけど」
奥川は淡々と答える。
「まだまだ不安定な時期です。話をよく聴いてあげればいいのでしょうけど。他の仕事も抱えているとうまく対応できないときもあります」
正直、子供の面倒は大変。
蒼の気持ちもわかる。
章は苦笑した。
「そうだね。でも、うまくやっていけば、末永く、我々にメリットを残してくれる子だ。飴と鞭を使い分けるってところかな?」
「飴と鞭?」
「鞭ばっかりだと、ほかに引き抜かれる恐れもあるし。ひねくれてもらっては、今後の仕事に支障が出る場合もある。ただ、いつまでも蒼がここにいるとも限らないし。個人で対応するのではなく、この羽根田のヨーロッパ部門全体、どのスタッフでも対応ができるようにしておくといいのかもしれない」
いつまでも蒼がここにいるとも限らないし?
自分は日本に帰れる時はくるのだろうか?
「そうですね。気を付けます。一応、チーフもしくは私の担当としておりましたが、ほかのスタッフにも対応させていきます」
「そして、対応は一様に同じく。この人だけが優しい、ってなると、子供はそういうところをよく見て反応してくるからね」
「そうですね」
かわいいだけでは通用しない。
ビジネスの世界に入り込んだセバスティアンが気の毒に思えた。
16歳の時の自分は、自分の好きな生活をしていたと思う。
大人たちに翻弄されて。
将来大丈夫だろうか?
なんとなく彼が不憫に思えた。
蒼のそんな気持ちを察したのか。
章は目を細めて蒼を見る。
「心配ない。我々は、彼の人生をどうこうしようというつもりはない。仕事は与える。道は与える。ただ選ぶのは彼だ。我々は彼のバックアップだ。音楽家は若い内から外に出なければ生きていけないのだ。その道を選んだのも彼。そこは尊重してあげないと。子供扱いはかわいそうだよ?」
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