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112.圭の休日5
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圭一郎は別な人物もここに招き入れたということか?
それとも、相手が間違っているのか?
圭はため息を吐いて、もう一度、中に入る。
相手に番号を確かめさせようと思ったからだ。
『失礼、部屋を間違ってはいませんか?』
圭はそう言いながら、男に歩み寄る。
「……っ……圭!?」
椅子に手をかけ、男の側まで行くと、薄暗い照明の中。
見知った。
懐かしい。
最愛の男の顔を見つけた。
夢。
夢なのだろうか?
圭は手からチケットを落とす。
「あ……、……蒼?」
痩せてやつれているけど。
スーツをまとった男は。
夢にまで見た蒼だった。
「ど、どうして?」
戸惑って泣きそうな顔をしている蒼。
ルルが登場して、拍手喝采が起こる。
「ほ、本当に?……圭だよね?」
「おれだよ。蒼。それはおれの台詞なんだけど……」
蒼は、大きな瞳にいっぱいの涙。
ぽろりっと落ちたか落ちないかの瞬間。
彼は圭に飛びかかった。
「圭!!」
彼らの声は拍手でかきけされる。
圭は、思いっきりぎゅーっと蒼を抱きしめた。
ああ。
蒼の匂い。
この匂い。
そして。
この感触。
蒼の感触。
少しやせたけど。
蒼の骨格。
抱き心地も蒼だ。
二人は固く抱き合い、動かない。
その内、拍手は鳴りやみ、ルルのチューニングが始まる。
「痩せちゃって。バカ」
圭は蒼の頬に手を添えた。
「ご、ごめんなさい……」
「また、いつものそれ?」
「だって……」
クライスラーの愛の喜びが始まる。
「ともかく。座ろう」
圭の囁きに、蒼は涙を拭きながら椅子に座る。
手は固く握りしめたままだ。
心躍る感覚。
予感だったのだろうか?
奇跡とは思えない。
きっと、圭一郎たちの図らいなのだろう。
圭はどきどきした。
こうして、喜びに満ちた自分を祝福してくれるようなルルの演奏。
大声で「おれは、この世で一番幸せだー!」と叫びたい衝動を抑えるので精一杯だった。
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