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113.変革のとき9
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「日本に帰るの?」
圭は蒼に言葉を投げかけた。
蒼はごろごろしていたとこで顔を上げる。
「うん。少しだけ。1週間くらい」
楽譜を見ていた圭は苦笑する。
「久しぶりなんじゃない?」
「そうなの!かれこれ半年ぶりくらい……。なんか楽しみー」
ここは圭のアパート。
場所が違うだけで、結局は日本で一緒に住んでいたときと同じパターンの二人。
蒼はごろごろして。
圭は楽譜をみながら構想を練っているところ。
けだもは、蒼の側でごろりとしているところ。
1年も離れていたのに。
ずっと一緒にいたかのように、二人は過ごしている。
「おれも帰ろうかなー」
「なに言ってんの!ルルのレッスンが始まるんでしょう?」
そうだった……と圭は苦笑いだ。
昨日、圭一郎を通して、その話が来た。
聞いたときはびっくりしたけど。
なんだか、そういう話が来て、嬉しかった。
ルルは自分を選んでくれたようだ。
これは光栄なこと。
だけど、怖いような気もしたり。
桜には師事していたけど、本格的な指導を受けるのは、久しぶりだ。
自分のやり方ってどうなのだろう?
思考錯誤のことも多い。
そんなときの誘いの電話だったので、思わず飛びついたけど。
大丈夫なのだろうか?
「レッスンは来月からだもの。その前に蒼と日本に行きたいじゃん」
「おれだってそうだけど。大丈夫ならいいよ。うん」
蒼の笑顔にほっと心が和んだ。
この笑顔があるだけでこんなに気持ちが安定するだなんて。
本当に。
すごい。
実感。
「けだもも帰り支度だね」
「そうだった。家も見たいなー……」
「なにも変わらないよ。管理もお願いしてきているし。おれは時々、見に行っていたけど。蒼が出て行ったときのままにしてあるよ」
「ごめんね。圭。あのときは……」
蒼はバツが悪そう。
「謝るなよ。おれのためにそうしてくれたんだろう?蒼は本当に心配性なんだから」
「……」
圭の言葉に、彼は視線を伏せた。
反省はしているのだろうけど。
もう蒼の性格はしっかり把握済みである。
こういうことがあったら、迷わず同じ選択をするに違いない。
もう、こういう目に合わせないようにしっかり見張っていないと。
圭はそう思った。
「みんな、元気みたいだね」
「星音堂の?」
「そうそう。水野谷課長に電話しちゃった。今まで、接触を断とう、断たなくちゃいけないんだって思っていたから」
「そういうのが蒼だよね」
「ばかみたいに。真面目なところって言いたいんでしょう?」
「そうそう」
水野谷にも言われた。
なにも、蒼の居場所を隠す必要もなかったことを指摘されてはっとしたことを思い出した。
どうせ、日本からヨーロッパまで足を運ぶこともないし。
圭にばれないようにって言ったって。
そこまで厳重にすることはなかったのに。
すっかり羽根田のやり口に乗せられていた自分が馬鹿みたい。
自分から、みんなに連絡を取ればよかったのに。
「おれの後にはかわいい男の子が入ったって」
「そうそう。篠崎とかって言ってたっけ?」
「そうなんだ」
「蒼みたいなタイプで、みんなにかわいがられていたよ」
「そっか」
蒼はほっとした。
星音堂はみんな元気。
水野谷の話を聞いて、ほっとしていたり。
なんだか、蒼の心も柔くなっていた。
「日本、楽しみだね」
「本当に」
二人は顔を見合わせて苦笑する。
けだもも、しっぽを振っていた。
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