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◾️エピローグ
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羽根田の提示してきた勤務条件は、市役所のそれよりもかなりいいものだった。
毎月の給与に関しては、現在とさほど変わりばえがないが、ボーナスはアップ。
休みも週休二日。
遅番制度は廃止され、17時15分以降は非常勤の職員を入れることになった。
退職金も保障され、福利厚生なども本社に準じるということで、残ることを選択した職員たちはほっとしていた。
「よかったね。蒼」
日本でのレコーディングがある圭とともに、帰ってきた蒼。
自宅で寛ぐと、本当に安心した。
4月からは、蒼はここに住むことになる。
圭は相変わらずドイツを拠点にして活動を行うことになってしまうから、二人が一緒に過ごせる時間はかなり少なくなってしまうが……。
それはそれで仕方のないことで。
心がつながっていることが、二人の気持ちを安定させていた。
圭は圭で、ルルのレッスンが本格的に始まる。
それを受けて、彼が世界にどこくらい挑戦できるのか。
これからが正念場だと蒼も思っている。
わがままは言っていられないし。
それに、これは辛い別れではないのだ。
お互いがお互いで、ステップアップしていくためのこと。
「みんなとまた仕事ができるのは楽しみだよ。それに、あの星音堂に戻れるって、本当にうれしい」
「章さんに感謝じゃん」
「……そうだね。いろいろあったけど」
蒼は章の顔を思い浮かべる。
彼は彼なりに蒼のことも考えてくれていたのだろう。
今考えると、心配してくれていたことは分かっている。
奥川を付けて寄越したのだって、彼女なら大丈夫と信頼しているからだ。
蒼一人に優秀な人材をあてがうなんて、もったいない話である。
なにせ、自分と血がつながっているというだけで、蒼の才能なんてあるのかないのかわからない状況なのだから……。
突然、見つけたどこの馬の骨ともしらない蒼をある程度の地位に抜擢した章には責任もある。
彼の弱みを握りたい輩は多いはずだ。
その弱点に自分がなってしまう可能性は高いのだ。
それなのに。
彼は敢えて自分を抜擢したのだ。
蒼からしたらありがた迷惑ではあるが……。
親の心境は分からない。
蒼が親になることもないし。
理解できない部分も多い。
だけど、圭一郎が必死に圭にアプローチしている姿と、章の姿は重なった。
親ってそういうものなのだろうな。
そう思う。
今回の星音堂の件も、章からしたら償いのつもりなのかもしれない。
よくわからないけど。
でも。
結果的に、蒼にとったら願ったり叶ったりの状況になった。
よかったのかもしれない。
「よかったんだね。きっと」
「そうだよ!確かに。水野谷さんとかいなくなっちゃってさみしくはなるけど。今度は民間になるんだから。その分、きっと自由に星音堂は生まれ変わるんだと思う。蒼はヨーロッパでいろいろなホールを見たり、やり方を見てきたじゃない。それに、人脈も少しずつ広げてきたし。きっといい管理者になれるよ」
「圭……。でも、おれにそういうの勤まると思う?結構なプレッシャーなんだけど……」
蒼は苦笑だ。
星音堂の管理ともなると、数字で成績が出てきたりするわけで。
それに、どうやっていったらいいのかもわからない。
ただの一職員だった蒼が、いきなり管理者である。
なんだか不安。
「大丈夫だよ。奥川さんもいるじゃない。いろいろなことを相談しながらやっていくといいんだ。蒼は自由に発想をして、やりたいことをやってみたらいいんじゃない?」
「圭……」
「好きなんでしょう?星音堂」
好き。
大好き。
だって、素敵な仲間をくれた場所だから。
蒼の居場所をくれた場所だから。
そして。
圭とめぐり合わせてくれた場所だから。
「好き」
「大丈夫。おれも手伝うから」
「うん……!」
圭は、おいでと蒼を手招きする。
蒼はなんだか気恥ずかしい。
そろそろっと近寄って、圭にぎゅっとする。
「頑張ろう。おれたち」
「うん」
久しぶりの幸せな気持ち。
大好き。
星音堂も。
みんなのも。
ここも。
圭も。
これから起こるかもしれない、いろいろな出来事に思いを馳せ、蒼は心躍らせていた。
ー蒼い音楽 終ー
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