アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
02 雨夜8
-
「なにをしているのですか。帰ろうとしたら玄関の辺りで怪しい人影を見かけたので駆けつけてみれば。こんな雨の中、泥棒の真似事ですか」
いちいち棘のある話し方をする男だ。
蒼は、む~っとして関口を見つめる。
「泥棒、だなんて……」
反論しようとはするけど、誤解を招くような状況を作っていた自分も悪い。
蒼は、もごもご言い分けをする。
頭にはくるけど、関口のほうが正しいことを言っていると理解しているから。
だけど、素直になることもできない。
「じ、自転車の鍵を失くしてしまって。そしたら、コンタクトも失くしてしまって……」
歯切れが悪そうに説明する彼を見て、関口は吹き出した。
「全くのドジですね!」
「ちょ、ちょっと!はっきり言わなくったって……」
一頻り笑った後、彼は蒼に懐中電灯と傘を差し出す。
「探しましょう」
「え、あの。でも。……いいです!」
笑っていたと思ったら、今度は真剣な顔。
蒼には、彼の考えていることが全く理解できない。
自分のドジで起こした出来事だ。
無関係の彼には、迷惑をかけられない。
そう思って首を横に振る。
しかし、関口は表情を険しくした。
「よく見えもしないのに、真っ暗なところで探せるはず無いじゃないですか。できっこないのに無理するのは、よくないですよ」
親切にしてくれているのは分かるが、彼の言い方はなんだか癪に触る。
むっとしてしまう。
「だけど」
「文句は言わない。さっさと探したほうがいいでしょう?」
「……」
傘と懐中電灯を押し付けられ、彼はしゃがみこんだ。
蒼は、慌てて傘を関口の上に差す。
そして、彼の手元に光を当てた。
「えっと~、で、何を探すんでしたっけ?」
「か、鍵」
「なんの?」
「自転車……」
蒼の回答に、関口はぽかんとしている。
「な、なにさ!」
「こんな雨なのに自転車で帰る気でいたんですか?」
「当たり前じゃん!だっておれの交通手段はそれしかないんだし……」
「車は?」
「車は……なくて」
ほんの少し、彼が笑った気がした。
「失礼しちゃう!べ、別にお金がなくて買えないとか、免許がないとかじゃないんだからね!」
「何もそこまで言っていないじゃないですか」
蒼は、はっとして顔を赤くする。
これではまるで、自分が卑屈になっているみたいではないか。
この男と一緒にいると、ペースが乱されっぱなしだった。
「んー……。何か目印なキーホルダーとか着いていませんか?」
なんだかしゅんとなってしまう。
そんな蒼を放置して、関口はさっさと地面を見つめる。
「え!……あの。鍵に?」
「ええ」
「……」
こいつには言いたくない。
「なんです?」
でも、見付かれば分かってしまうことだし……。
「熊谷さん?」
蒼は、もこもこ口を開く。
「あ、あの。うさぎ」
「はあ?」
「……だ、だから。うさぎくっついてんの!」
赤面している蒼。
そして、関口は吹いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 869