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02 雨夜11
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「音楽の世界は厳しいのです。才能やセンスだけが物を言う。先天的でも後天的でもいいですが、ともかく腕なのです。なかなか上手くはいかないものなのですよ。それでなくても、おれは年齢的に遅いほうなので。星野さんには心配かけ通しなのです。あの人は両親より世話になった人ですからね」
「ふうん……」
両親よりもって言葉が引っかかる。
彼は両親に愛されてなかったのだろうか?
それとも言葉のアヤやなのだろうか?
だけど、そういう彼の気持ちを知ってか、星野もまた、彼を優しい目で見ていることは確かだった。
「あ、そこ」
星野と関口の関係に想いを馳せていると、見慣れた自分のアパートが見えてきた。
「ここですか」
ハザードランプを点滅させ、車は静かに停車する。
しんっと静まり返った車内には雨が打ち付けている音が響いていた。
雨はやみそうに無い。
そして、今晩は冷える。
長時間濡れていたせいもあるのかも知れない。
蒼は、寒気を感じた。
「あ、あの」
「どうしました?」
てっきり降りていくものだと思っていた関口は、蒼を不思議そうに見つめる。
彼は、少し顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「これから、どうするのかと思って……」
「え?」
「いや、やっぱり。鍵を探してもらったし……。あれなかったら帰れたわけじゃない?」
「それは……」
関口は苦笑した。
「別に気にする事はないですよ。どっちにしろ東京まではたどり着けなかったでしょうから」
「でも……」
落ち着かずに、視線を彷徨わせている蒼。
出逢ってそんなに経っていないのに、蒼の考えていることは手に取るように分かる。
自分のこれからを心配してくれているようだ。
単純な男なのだろう。
関口は思わず苦笑した。
「じゃあ。泊めてくれますか?」
彼の言葉に、それが言いたかった!とばかりに蒼は合いの手を打つ。
「あ、う、うん!もちろん!……だけど、狭いけど、いい?布団はもう一組あるから大丈夫だと思うんだ」
うん!と嬉しそうに笑う。
どっちにしろ、今晩帰宅できないのならビジネスホテルでも探そうかと思っていたところだ。
本当だったら、一人のほうが楽だし、そっちのほうがいいが。
自分がこの男の申し出を受けることで、彼が喜ぶのであればそのほうがいいように思われたのだ。
その間にも、関口をどこに寝かせるかとか思考を巡らせている蒼は視線をさまよわせていた。
「かまいませんよ。ともかく横になれれば、どこでも寝られるように出来ています。演奏会とか、海外に行ったときは徹夜とか、飛行機の上とかありますからね」
「え。海外にもいくんだね!やっぱりプロなんだ」
「その疑ってかかるのは止めてもらえませんか。嘘をついても仕方ないことではないですか」
「え!?今日嘘ついたじゃない。おれのことからかった」
結構、根に持っているのか?
思わず笑ってしまう。
あまりからかわない方がいいのかも知れない。
なんて思いつつもからかいたくなるのが関口のクセだ。
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