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09 甘くない桃4
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「圭が演奏会を控えていた時期、あたしもコンクールを控えていたの。あたしは圭との演奏が最後になるんじゃないかって思って伴奏の練習ばっかり熱を入れていたからさ。こいつはあたしがコンクールに落選したら大変なことになるんじゃないかって思って別な女に伴奏を頼んだって訳」
そっか。
そうだったのか。
やっぱりそうだ。
関口が事情もなくそんなことをするなんて思えなかったから。
よかった。
蒼はほっとする。
関口は困った顔をしていた。
「あの時のコンクールは桃にとったら大切なものだったろう?」
「あんたねえ。あたしがあんたの伴奏したくらいでコンクール落選すると思ったわけ?見縊られたもんね」
「桃。すまなかった」
「まったくさ。一回は言ってやんなきゃ、気が済まないといと思っていたからすっきりよ」
彼女は微笑む。
蒼はどきどきした。
この人も悪い人ではない。
こんなに愛らしい笑顔見たこと無いし。
「よし。引き受けてやるか」
右手を差し出して関口に握手を求める。
「和解ね」
「ありがとう」
関口も嬉しそうに握手を交わした。
いくら中学生といえ、彼女には音楽家としてのプライドがあったのだろう。
関口のパートナーとして認めてもらっていないという想いがあったのかもしれない。
蒼にとったら難しい世界だ。
関口のいるところは自分が思っているよりも過酷な場所なのかもしれない。
ふとそう思った。
「それにしてもあんた、趣味がよくなったんじゃない?昔は本当にひどい女連れていたよね?」
「おい!桃!」
桃は軽く笑って蒼を見る。
「あんた名前は?」
「熊谷……蒼」
「蒼?ふうん」
関口は焦る。
彼女の言っていることの意味が分からない。
蒼は目を瞬かせた。
「へ~。まだな~んも無いんだ」
桃はおかしそうに笑った。
「おい!言うなよ!」
「関口。なんの話?」
「なんでもない!」
「?」
関口はたじたじだ。
それを彼女はにこやかに眺めていた。
「ま、気長に見守ってやるか」
「こら。勝手に保護者面すんな」
含み笑いをして桃は伸びをした。
「よし!久しぶりだよね。あたしたちが組むんだ。優勝はいただきだからね。報酬は弾んでもらわないとね」
「桃!」
「当たり前でしょう?あたしはプロよ?きっちりしますから」
「……」
「じゃあ。そういうことで」
桃は言いたいことだけを言い残し、颯爽と帰っていた。
それを見送っていた蒼はぼんやり呟く。
「綺麗な人だね……」
「蒼!まさか?ああいうのタイプ?」
「え!タイプって。おれには釣り合わないよ」
えへへと嬉しそうにしている蒼。
関口にはちょっとショックだった。
たしかに。
普通の男性だったら彼女のことをなんとも思わない奴はいないだろう。
だから蒼の反応は普通なのだと思う。
だけど、やきもちをやいている自分にも腹がたった。
「そんなに桃がいいなら桃の家にでも行け」
ぷいっと視線をそらしてベッドに横になる。
「は~?なに言ってるんだよ~!ここはおれの家なんだからね!」
出て行くのは関口のほうでしょう?と文句を言いながらお風呂に向かう蒼の後姿を見送る。
苛立っていた。
本気なのだろう。
自分は。
ここのところ、関口の心の大半を占めているのは蒼のこと。
どうしたらいいのだろうか?
このもどかしい想い。
黙っているわけにもいかなそうだが、自分の想いを伝えるにはハードルが多すぎる。
もう少し様子を見ないことには対策を練ることができなそうだった。
「は~……」
大きくため息を吐いて天井を見つめていた。
正直、コンクールよりも問題は大きかった。
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