アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
12 それぞれの覚悟2
-
退院したものの、調子はいまいちだ。
室内に入って、すぐにベッドに横になる。
蒼の荷物を片付けてくれている関口。
「後でいいよ。関口。おれ、調子が戻ったら自分で出来るから」
「いい。大丈夫だ」
結構、几帳面なのだから。
これはやってもらったほうがいいだろう。
無理に止めさせて、ストレスになると仕方ない。
大きく息を吐いて、天井を見上げる。
瞳を閉じてうつらうつらしてしまう。
だるかった。
寝て生活していたこともあって、筋力も落ちているのかも知れない。
ふわふわした感覚に襲われてめまいがするのだ。
どのくらい寝ていただろうか?
ふと目を開けると、関口の横顔が見えた。
彼は床に座り、ベッドに寄りかかって楽譜を眺めているところだった。
とうとう明日。
彼の試練の時。
「練習に行ってきていいんだよ。おれは平気だから」
掠れた声で伝える。
彼は集中していたみたいで、はっと驚いた顔をして振り向いた。
「蒼。寝ていていいんだぞ」
「おれは一人でも平気だよ。練習に行ってきて」
身体を起こすと咳が出た。
彼は楽譜を閉じて蒼を横にした。
「いいんだ。後は明日、桃とあわせることになっているんだから。心配することはない。自分のことだけ考えてればいいんだ」
「そうなの?」
「前日はゆっくり休むことにしているんだ。じゃないと、間際になって、ああだこうだと迷ってしまうからね」
音楽の世界のことは蒼には分からない。
そうなのか?
蒼だったら……。
「欲がないんだね」
「……え?」
苦笑して関口は身を乗り出す。
「おれだったらどんどん練習して、欲張りしちゃうかも……」
「蒼らしいな」
「おれらしいって。なに?知った口調だよね?」
変な気がする。
自分で自分のこともよく分からないのに。
だけど、関口は自信を持って話す。
もう蒼のことはお見通しと言う感じだ。
「なんだかんだ言って、もう二ヶ月も一緒にいるんだよ?蒼のことは、よく分かってきた」
「そうなの?おれは関口のことが、なんだかよく分からないんだけど……」
言ってしまってから、はっとした。
でも本当のことだもん。
蒼は、関口が考えていることがよく分からないのだ。
「おれはバレないようにうまく隠しているのだ」
「なに!?」
「冗談だって」
「知らないよ!関口なんて……」
こんな時まで冗談を言うことはないのに。
ぷいっとそっぽを向く。
「ごめん。蒼」
「……別にいいけどさ」
騙したことを怒っているのでは無い。
ただ。
関口は蒼のことを知っている素振りなのに、自分が関口のことを知らないのがつまらないだけなのだ。
自分は彼のことをなにも知らない。
蒼の知らない世界で生きている人間なのだ。
音楽のことは、ちっとも分からない。
星音堂に来る人たちは、みんな楽しそうに笑顔を見せているのに。
本当は、こんなに過酷な世界にいるんだってことに驚かされた。
好きなことだけやっていればいいなんて羨ましいって思っていた自分が浅はかだ。
そういう目で見てみると、彼は尊敬に値する人物たちに見えた。
ただの生意気な年下男だと思っていたけど……。
なんだか尊敬してしまった。
「蒼?」
「ううん」
「具合悪いんだろう?眠りな」
蒼がじっと見ているので、関口は首を傾げた。
「ん?」
「ううん……。なんでもない」
蒼のことを覗き込むように、ベッドに肘を着く。
そして関口は笑顔を見せた。
「なにも心配はいらないんだ。明日は、蒼が聞きに来てくれるだけで頑張れる」
「関口……」
まっすぐに見つめられると逃げたくなってしまう。
蒼は、瞳を閉じる。
しばらく関口の視線を感じていたものの、蒼が眠ってしまったと思ったのか。
彼は楽譜を開く。
見られていると言う状態から開放されるとほっとした。
関口の思い。
なんとなく分かるようで分からない。
いや。
分からないふりをしたいだけなのだろうか?
蒼はもぞもぞと居心地が悪そうに布団に顔をうずめた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
70 / 869