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15 過去6
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物心ついたとき。
蒼には父親という人はいなかった。
いつも側には優しい母親がいた。
彼女は、ぽかぽかのお日様だった。
いつも優しく笑っていて、蒼をすごく大切にしてくれていた。
後から聞いた話だと、父親はどこかの妻子持ちらしかった。
この世の中のどこかに、その人はいるに違いなかった。
しかし、蒼は父親と言うものを知らなかったから意味がよくわからなかった。
母親と二人きりの生活。
幸せだった。
彼女は福祉制度に頼ることなく、女で一つで蒼を育ててくれていた。
女性が高給を稼げる場所といったら一つしかない。
彼女は夜の仕事をしていた。
高級クラブだったらしい。
夕方、出かけていくときに夜間保育園に預けられる。
先生たちに囲まれて一晩を過ごす。
朝、夜明けと共に迎えに来てくれる母親。
蒼は少しお酒とタバコの匂いを漂わせながら迎えに来てくれる彼女が大好きだった。
「お母さん大好き」
保育所の頃は母親の絵をたくさん描いた。
たった一人の家族で。
たった一人愛してくれる存在。
夜、働いているから眠いだろうに。
少しの仮眠で起きだすと一緒に遊んでくれたり、買い物に出かけたり。
彼女はいつでも蒼のことを一番に考えてくれていたのだ。
家族であり、一番の友達でもあった。
だけど。
二人だけの幸せだった日々は、あっという間に変わってしまった。
母親は店に通って来ていた男に一緒になろうと言われたのだ。
彼女は蒼のこともあるので、ずいぶん悩んでいたようだった。
蒼にとったら家族が出来ることは喜ばしいことだ。
しかし、彼がその家に馴染めるのかどうか心配だったのだ。
相手の男にも連れ子が二人いたからだ。
悩みに悩んだ末、彼女は再婚を決意する。
本当の父親ではないけれど、父親と呼べる人が戸籍上いることは、この先の蒼の人生には必要だと思ったのだ。
相手の男の名前は「熊谷栄一郎」と言った。
市内では少し名の知れた中規模な病院の院長だった。
彼は妻を病気で亡くし、子ども二人を一人で育てていると言うことだった。
蒼には急に兄と弟が出来る。
そして。
お父さんが出来たのだ。
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