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16 待たなくていい2
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あれから。
関口は本当に、蒼の母親の見舞いに付き合ってくれた。
十何年ぶりだったろう。
空は、長い病院生活で、随分老けてしまっていた。
若い頃のあの、艶やかな笑みは無い。
しかし、蒼を見てお日様のように暖かい笑顔を見せてくれた。
彼は、幸せだった。
大好きだった母親。
大好きで、抱きしめてもらいたくていたのに。
一番、抱きしめてもらいたい時に、拒絶されてしまっていたから。
母親に対して、どう接していいのか。
わからなかった。
しかし、一緒に着いて来てくれた関口が、背中を押してくれた。
『素直に。自分の気持ちのままにすればいいんだよ』
彼は、耳元でそう囁いた。
自分は……。
母親に。
抱きしめてもらいたかったのだ。
面会は、他の患者もいたし、病院のスタッフもたくさんいるデイルームで行われたが、そんなのお構いなしだった。
蒼は、空にぎゅうと抱きしめてもらった。
「蒼。よく来てくれたわね」
彼女は、彼の存在を確かめるようにら蒼の頬に触れた。
彼女の大きな瞳から、零れ落ちた涙の意味は分からないけど。
蒼も、自然に涙が出た。
関口に逢えて良かった。
どうしてよいのか、分からない自分の背中を押してくれた人。
「蒼の母さん。綺麗だなあ。蒼は母さん似だ」
関口は、そう言って笑った。
病院の帰り道。
蒼は、関口の差し出した手を握った。
あの時の答えは出ていない。
関口が、蒼のことを好きだと言ってくれたこと。
彼は複雑な蒼のことを気遣ってか、それ以降は強引なことはしなかった。
ただ、側にいて蒼に付き添ってくれるだけ。
寂しいときに抱き締めてくれたり、こうして手を繋いでくれたりする。
それだけで、蒼の心は救われていた。
そんな関口の気持ちに、甘えきっていていいのだろうか?
そんな疑問がよぎる。
関口の優しさに、寄りかかっていたのでは、なんだか彼に対して失礼な気がした。
彼は、待っていてくれる。
後は、蒼が決めるだけなのだ。
だけど、なかなか決め兼ねている。
それは、幸せに慣れていないせいか?
戸惑いが大きいのだ。
どうしたらいいのだろうか。
今日から数日、彼は不在だ。
ゆっくり自分と向き合って考えてみよう。
青い空の下、蒼はいつものように自転車に乗って星音堂を目指した。
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