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18 マエストロ5
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関口圭一郎とはやはり、世界の男であった。
日本を代表する交響楽団を率いて、堂々と華麗な演奏を披露していく圭一郎は、蒼たちの部屋に遊びに来ていたあの男とは別物だ。
燕尾服に身を包み、情熱的に指揮を振る。
蒼は初めて、本物と呼ばれる男を見たと思った。
「すごい……」
目を大きくしている蒼の横顔を見詰めて、関口は微笑する。
蒼がこんな幸せそうな顔をするなんて。
彼に音楽のなんたるかは全く理解できないだろう。
ただ、そういう素人の彼ですら、こんなに心動かされるのだ。
やっぱり、圭一郎はすごいのだと思う。
反発もしてきたけれど。
彼の演奏はそんなもの黙らせてしまう。
彼の音楽の力は絶大だ。
「早くあなたのいる場所に行きたい」
ぽつんと呟いて関口はこぶしを握り締めた。
まだまだ父親の存在は大きくて遠い。
世界的にも注目されているマエストロの演奏。
会場にはたくさんのマスコミが駆けつけていた。
星音堂に勤務していてこういう現象は稀だ。
蒼はそこにもビックリした。
「すごいね。やっぱり」
「そうだよなあ」
「は~」
蒼は大きくため息を吐く。
「どうだった?蒼」
「え!」
二人は演奏が終わってもいつまでも椅子に座っていた。
すぐに出ようとすると帰宅する人たちのラッシュに巻き込まれてしまうから。
少し間を置こうと言うことになったのだ。
すでにホールを出て行く観客たちは口々に賞賛の言葉を述べていた。
「なんかさあ。おれ。すごく言葉に出来ないけど……。なんか、胸がどきどきした」
蒼は興奮してしまっているようで顔を赤くして瞳を潤ませていた。
「そっか……」
蒼はすごく感動しているみたいだ。
自分は彼にこんな感動を与えられるのだろうか?
ちょっと不安になる。
「関口もいつかは、あんなに注目されることになるんだよね」
「さあねえ」
おれには、ほど遠いといいかけて言葉を濁す。
隣にいる蒼は瞳を輝かせて見ている。
そんなに期待されても困る。
なんだか意地悪をしたくなった。
「おれが世界に出たらお前とはいられなくなるな」
すると蒼はショックのリアクション。
「そ、そうだよね!関口が世界を飛び回るようになったら、こんな田舎にはいられないよね……」
「冗談だって」
しゅんとした蒼に苦笑する。
「な!」
「まだまだ先の話だろう。おれは一生、芽が出ないかも知れないんだからさ」
「関口……」
蒼はしょんぼりした顔をしていたが、気を取り直す。
ここは自分が元気を出して彼を励ましてあげよう。
そう思ったのだろう。
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