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19 鎖6
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居間には栄一郎、陽介、啓介、蒼に空が集まった。
久しぶりの集合である。
ソファに腰を下ろした栄一郎は、緊張の面持ちを浮かべている息子たちを他所に、あっけらかんとした調子で話し始めた。
「みんな忙しいのに悪いね。実は、空を退院させて家で療養させようかと思うんだ」
空は、初耳だったのだろう。
驚いた顔をして栄一郎を見ている。
「あなた……」
彼は悪戯に笑う。
「ごめんね。空。黙っていたわけではないんだけど。先生と外泊の練習をして、調子がよさそうだったら退院って約束していたんだ。だから別にキミには言わないでおいたんだよ。そわそわしちゃうと困るからね」
彼女の手を握り、栄一郎はまっすぐに見つめる。
「もう病状は落ち着いているんだ。いつまでもあそこにいなくていいんだよ。自宅に帰ってきても病院にいる時みたいに、本を読んだり、ゆっくりしたり。自由にしていていいんだから」
「……」
彼女は不安そうだ。
しかし、それは当然のことだ。
もう十数年も病院の生活を送ってきたのだ。
あの場所を離れて、事件を起こしたこの家に戻って正気でいられる自信がないのだから。
それに、自分は良くても子どもたちは……。
陽介や啓介は自分の本当の子どもではないし。
こんな問題ばかりの女が、戻ってくるのは好ましいとは思えない。
空は黙って俯いた。
彼女の心情は蒼には、よく分かる。
蒼もただ黙って彼女を見ていた。
栄一郎は「大丈夫」と囁いてから陽介、啓介、蒼の順番に顔を見渡す。
「みんなはどう思う?」
陽介は、腕を組んだままじっとしていた。
まただ。
この人は空と再婚するときもきちんと意見を求めてきた。
同居している家族なのだから当然のことなんだろうけど。
ちらっと啓介を見る。
彼も何かを考えているようで落ち着きがなさそうにしていた。
「おれはいいと思うよ」
陽介はため息を吐いてから声を上げる。
「陽介」
「母さんはちゃんと治療をして、そして社会復帰できるようになったんだ。なにも、あそこに入っている必要はないと思う」
彼はまっすぐに栄一郎と空を見る。
「おれは母さんと接した期間は本当に少しで、勝手に母さんだって思っているだけだから。空さんからしたら、迷惑かも知れないけど。だけど家族は一緒にいるのが当然だ。だから、母さんもこの家に戻ってくるべきだと思う」
彼の言葉に栄一郎は笑顔を浮かべる。
空もほんの少し嬉しそうにしていた。
母親として接した時間は、ほんの数年もないくらいだ。
だが、彼は自分を母親として認めてくれている。
そう思うと心が少し軽くなった。
しかし、蒼は気が重くなる。
『家族は一緒にいるのが当然だ』
それは、そうかも知れない。
陽介の言葉は、蒼にも向けられているような気がした。
「啓介はどう?」
栄一郎はもぞもぞしている啓介を見る。
「え!おれ?お、おれは……。別にいいと思うよ。これって父さんと母さんの問題だと思うし。おれは、母さんが帰ってきてくれるのは嬉しい」
そう言ってから彼は苦笑する。
「なんだか。母さんが始めて遊びに来ることになったときみたいだな」
「え?そうか?」
栄一郎は首を傾げた。
「そうだよ。父さんが今度、結婚したい人がいるから連れてきていいかって、陽介とおれに聞いたじゃないか」
「そうだったかもね」
確かにと、陽介も微笑を浮かべた。
あの時は、どんな女の人が来るのかと、啓介は、はしゃいでいたっけ。
「蒼はどう思う?」
最後に振られた蒼は、ビックリしたかのように身体を硬くした。
自分には意見をする権利はない。
「蒼?」
手を握り締めて俯いてしまっている蒼。
栄一郎は心配そうに見つめた。
「どうしたの?蒼?体調でも悪い?」
「い、いいえ。あの。なんでもなくて……」
「そう?じゃあどう思うか話してみて」
彼は息を浅く吐き、話始める。
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