アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
22 不穏な出会い2
-
初老の男だ。
すらっとした長身。
薄い茶色の長めの髪を左で分けていている。
そんな格好が、彼を若く見せているのかもしれない。
ネクタイを緩めている姿はなんだか、きっちりしてなさ過ぎて好感が持てた。
『紹介します。マエストロ・ガブリエルです』
マネージャーの言葉に関口は顔を上げた。
この人がガブリエル。
よく父親の話の中に出てくる指揮者だ。
友人だと言っていたけど、怪しいものだ。
あんな変人と、この紳士ではつりあわない。
自分があいつの息子だと言うことは秘密だ。
恥ずかしくて名乗れない。
彼は優しい笑みを浮かべて団員を見渡す。
『皆さん、素晴らしい演奏にしましょう』
彼の挨拶に答えるかのように、コンサートマスターの貝塚が立ち上がった。
『どうぞ、宜しくお願いいたします。コンマスの貝塚です』
『君がコンサートマスターだね?宜しく』
気さくに握手をしている姿は微笑ましい。
「なあなあ」
「ん?」
「ガブリエルって言ったら、重厚な音楽と秘めたる思いを滲ませる詩人指揮者って聞いてるけど、本当にあの人なのか?」
確かに。
イメージと彼とは全くかけ離れて見えた。
「そうだね。だけど、たぶん。あの人なんだと思うよ」
優しい瞳の奥にはなにやらくすぶっているものが読み取れる。
秘めたる思い。
納得できるかも知れない。
貝塚とガブリエルは挨拶がてら、言葉を交している。
それを見ながら無駄口をばっかりする宮内。
彼は「あ」と顔を上げた。
「今度はなんだよ?」
「いやさ。今日はこれで終わりって言ってたじゃん。どっか遊びに行こうぜ」
「宮内……」
「だって、海外回ってたって、ちっとも遊べないじゃないか。移動時間ばっかりだ」
「確かに……」
ちょうどいい。
お土産を買いにいかないと。
お土産のことを考えていると、ふと蒼の顔が浮かんだ。
彼はどうしているだろうか。
あんなにしょんぼりしてしまっていた。
心配で遊んでなんている暇はない。
このツアーは明日の公演で終わる。
早く日本に帰りたい。
それでなくてもしょんぼりしていたのだ。
お土産を買って、喜ばせてあげないと。
「……」
「どうした?関口?」
「蒼が……」
「?」
「いや。蒼がさ。おれが日本を発つ前にちょっと凹む出来事があって。それであいつしょんぼりしていたのに置いてきちゃったんだ。だから心配で」
関口の言葉に宮内は苦笑する。
「過保護だなあ。子どもじゃないだろう?」
「そうなんだけど……」
それはそうなんだけど。
心配なのに変りはない。
過保護なのだろうか?
桃や星野にお願いしたときも同じことを言われた。
だけど、好きな人のことを心配するのは当然のことだと思う。
蒼には笑顔でいてもらいたいのだ。
「そんな風に心配されたら、蒼ちゃんだって心外だって思うかもしれないぞ?」
「え?」
「そうだろうが。それは心配かも知れないが。蒼ちゃんだって立派な大人だ。お前があんまり心配ばかりしていると、信用されていないのかって自尊心傷つけられるんじゃないの~?」
「ぐ……」
それはそうだ。
自分は蒼のことを信頼していないわけではないのだ。
蒼ならきっと乗り越えられる。
そう思っている。
だけど、心配だし……。
自分の手元にあるヴァイオリンを見つめる。
「信用すれば?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
150 / 869