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26 夏の秘密3
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花火大会の夜はさすがに星音堂も暇である。
こんなイベントの夜に練習をしているのは市民合唱団くらいなものだった。
7時を回ると、ものすごい音が響いてくる。
「始まったな」
パソコンに視線を向けていた星野が顔を上げた。
結局、遅番は変更もなく、星野と蒼だ。
「わ~。ちょっと見たいですね」
蒼の声に星野が珍しく同意をした。
「そうだな。ちょっとなら、ここをあけても大丈夫だろう。今日は市民合唱しか練習が入っていないらな」
「やった!」
蒼はそうと決まれば!と席を立つ。
星野も同様だ。
「それにしても。市民合唱はまじめだよな~。花火大会もなんのそのだな」
「星野さんは音楽界の人に顔が広いですけど、市民合唱にも知り合いがいるんですか?」
「市民合唱か?」
二人は事務室の前の廊下を通って玄関から外に出る。
「市民合唱は横川先生っていう、なんとも個性的な先生が顧問になっているんだ」
「へえ」
蒼は市内の音楽団体のことなんてなにも分らないので、こうして星野から話を聞くのが大好きだ。
自分の職場を利用してくれている団体のことをなに一つ知らないなんて、失礼だもの。
「横川先生は高校の音楽教師で、初代の教え子たちと市民合唱を立ち上げたと聞いた。しかし、今では初代生徒たちも相当な歳だし、団長はずいぶん若い子に交代したって聞いたな」
そうなのだ。
なんだかやりにくいんじゃないかな~と蒼は思う。
「団長が若くなったら、団員たちも平均年齢が若返っているって話だ。横川先生も、若い子相手に苦戦しているみたいだ」
二人で外に出ると、花火は打ちあがっていた。
赤や黄色、緑…色とりどりの光が闇夜を彩っている。
「きれいですね」
蒼は、大きくため息交じりに声を上げる。
花火がこんなにいいものだなんて、知らなかった。
「関口じゃなくて、おれで悪かったな」
はっとして、隣に立っている星野の横顔を見る。
厭味かな?と思ったけど。
悪気はないらしかった。
「星野さん……」
どうしたのだろう?
ここのところ、やっぱり変だ。
蒼は首をかしげてから、思いついたことを言ってみる。
「すみません。おれこそ。隣がおれで」
すると、彼ははっとしたように顔を上げた。
図星?
大きな瞳を瞬かせていると星野は軽く笑った。
「いいって。蒼でも幸せさ」
「また、星野さん」
「しかし。なんだな。うん。いろいろあるなって、最近思う」
意味ありげだが、わけが分らない。
「星野さん。なにか悩んでいるんですか?」
思わず単刀直入に聞いてしまう。
「そうだな。そうかも知れない」
「星野さん?」
しばらく黙ってしまう星野。
彼の声を待つ。
星音堂の林が残暑を感じさせる風に乗って、音を立てた。
「まあ、困ったら、お前に頼むしかないな」
「星野さん?」
なんだろう?
自分が星野に頼られるなんて、初めてだ。
吃驚していると、ひときわ光が強くなる。
星音堂の近くにある病院の屋上からも、数人の観客がいる。
歓声が上がった。
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