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28 新星現る5
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ばたばたしていた隣の部屋が落ち着いたようだ。
圭一郎は再び目を通していた新聞から顔を上げる。
どんなことになっているのだろうか。
なんだか大事である。
コーヒーに手を伸ばした瞬間。
ショルの声が響く。
『関口!見てよ!』
ソファから顔を覗かせて見ると、蒼は深青の着物をまとって立っていた。
「あの……」
覚悟を決めて着たものの、やっぱり恥ずかしい。
だって女性のだ。
女装みたいなものだろう。
居心地の悪そうな蒼。
『どうだ!関口!』
ショルティは得意げだ。
無知とは恐ろしいものだと言う言葉は、真実のようだ。
「振袖だろう……。それは……」
さすがに蒼が気の毒になった。
「そうみたいなんですが……。ショルは着物のことがよく分からないみたいで」
蒼は自分の格好を見るのに、身体をひねったりしている。
しかし、そうは言うものの、よく似合っているのは確かだ。
元々、愛らしい容姿は男らしさを感じさせない。
この着物を関口が着たら、また別の印象になるだろうが。
違和感がないのが不思議だ。
着物は蒼の名前で出来ているような色だった。
どこか影があって。
悲しい色だった。
『思った通りだ。蒼にぴったり!』
絶賛のショル。
圭一郎も苦笑してしまう。
『素敵だ。蒼。振り返らない人間はいないだろうな』
「お……お父さんッ!」
蒼は顔を赤くして俯いた。
後悔してしまう。
やっぱり着なきゃよかった。
『午後からリハがあるんだ。蒼も聞いてくれるだろう?』
『え。ええ……』
『じゃあ、ランチをしにいこう!関口もおいでよ!』
ショルは上機嫌で蒼の腕を取ると方向転換をし、出入り口に向かう。
『ショル!そんなに早く歩かないで!着物は歩き難いんだから』
『ごめん。蒼』
二人のやり取りにため息が出た。
『……はあ』
早く返さないとますます怒られてしまう。
ショルの日本公演。
早く終わってくれと願うばかりだった。
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