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28 新星現る12
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迷子。
大人になって、迷子になるなんて思わなかった。
視線を巡らせる。
コンサートホールのステージ裏ほど入り組んでいる場所ない。
そのホールごとに、出演者が移動しやすいように効率良く作られている廊下は、迷路みたいになっていた。
星音堂の場合は、こじんまりしたホールなので単純な造りになっている。
そのおかげで、方向音痴の蒼でも迷子にならないで済んでいるが。
このホールは訳が違う。
オーケストラの団員たちがちらほら見受けられるから、ステージ裏で間違いはないのだろうけど、自分がどこの位置にいるのか、全く想像もつかない。
圭一郎と待ち合わせをしたホールに行くにはどうしたらいいのだろうか?
うろうろしてみるが、さっきも来た場所に戻ってきてしまいほとほと困り果ててしまった。
立ち止まってため息を吐く。
そして顔を上げると、側にいたオケ楽団員が、蒼を見ていることに気づいた。
「へ?」
団員たちは一様に視線を外し、そそくさと立ち去っていく。
そっか。
着物。
これが問題である。
振袖。
でもよく見れば男。
おねえかなにかに思われているに違いない。
「おれ、変態みたいじゃん……」
早く圭一郎と合流しなければ。
彼は用事があると言い、少し外出をしてくると言っていた。
その間、蒼はショルティと夕食の時間を過ごした。
ショルティは本番に向けて、着替えに行ってしまったので、蒼は前もって圭一郎に言われていた待ち合わせ場所に行こうとしているところだった。
そして迷子。
早めに出てきて正解だった。
早めに出てきても迷子になっては、遅刻してしまうだろうけど。
「どうしよう……」
おろおろしていると、不意に腕をつかまれた。
「!?」
ビックリして振り返る。
「やっぱり。蒼だ」
振り向くと見たことのある男。
一度だけ、見積もりに来た長身の男が立っていた。
「あ、あの……」
「ほら。料金説明してもらったことがある……」
「え、ええ。そうですよね」
そうだった。
不可解な行動を取っていたから、よく覚えている。
しかし、何故、彼が自分のことを知ったように話しかけてくるのか理解できない。
瞬きをして男を見上げる。
「なんで、おれのこと……?」
宮内は、はっとする。
そうか。
自分は蒼のことをよく知っているが、彼は自分のことを知らないのだろう。
ちゃんと関口に紹介されたわけでもないし。
彼は咳払いをして、蒼から手を離した。
「おれは明星オケで、関口と一緒にやっている宮内だ」
宮内。
蒼もはっとする。
「え?宮内さんって……。桃さんの彼氏?」
関口からその辺りの話は行っているのだろう。
宮内は苦笑してしまう。
「そうだ。ところで、どうしてこんなところに?ショルと?関口は?」
立て続けの質問。
だけど、蒼も腑に落ちないところが多いくらいなのだから。
聞かれても困る。
「関口のお父さんに頼まれて……」
「どうして?」
どうしてって。
「この前の海外ツアーのときに、関口がおれの写真を落としたらしくて、それでショルが拾ってくれて……。はっ!そうだよ!元はと言えば関口が悪いんだ!写真なんか落とすから!」
一人で話していると、混乱していた思考が整理されてくる。
腹が立ってきた。
さっきまでおろおろしていたのに。
急に怒り出した蒼。
宮内は、彼をなんとかなだめようとした。
「まあまあ。関口は君のことが本当に大切なんだよ。写真だって、おれが見せてって言ったから出してくれたんだし。それがなかったら失くすこともなかったんだ。悪気もないんだから、許してやってよ」
「でも……!」
ちまっとしていて、ほんわかしているのかと思いきや。
興奮すると手が着けられない。
結構、面倒な男だな……と宮内は思った。
どうなだめようか。
思案していると、圭一郎がやってきた。
「蒼。やっぱり迷子だったね」
「先生」
「宮内くん。蒼を見つけてくれたんだね」
「おろおろしていたものですから」
蒼は顔を赤くする。
そんな顔をしていただろうか?
恥ずかしい。
「それはそれは。どうもありがとう」
圭一郎は、蒼の代わりに頭を下げる。
それを見て蒼がおろおろしてしまう。
「もう始まるよ。宮内くんも頑張ってね。楽しみにしているよ」
「はい。……じゃあ」
「あ、宮内さん。ありがとうございます」
蒼はぺこっと頭を下げる。
「年下だし。さんとかいいですから」
宮内はそれだけ言うとステージのほうに歩いていった。
それを見送ってから圭一郎を見る。
「さて。わくわくするね」
彼は無邪気に笑った。
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