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29 ライバル3
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「落ちついたら帰るぞ」
床にうずくまり瞳を閉じている蒼。
荒い息を吐いている。
普通だったら、この吸入でなんとか治まるが。
「圭。もう少し休んでからでも」
圭一郎の言葉に、関口はむっと彼を睨む。
「車で休ませるから大丈夫だ」
そして、ショルを見据える。
『ショルティ。確かにきみは才能もあって素晴らしいとは思うけど。蒼に手を出したら許さないっ!』
「関口!」
また始まりそうな勢いだ。
蒼は慌てた。
しかし、ショルは相変わらず笑っている。
『何がおかしい!?』
『今のきみはプロでもなんでもないだろう?蒼を幸せにできるつもりでいるのかい?一人前でもない坊やが。蒼を幸せにできるのか?』
挑発するような彼の言葉に、今まで黙っていた圭一郎も呆れて口を挟んだ。
『ショル!いい加減にしなさい』
しかし、言われた張本人の関口はショックだ。
自分でも痛感していることだから。
図星だから救いようがない。
『な……!』
『そうだ!いい考えがあるぞ!おれと勝負しろ!圭!』
『はあ!?』
その言葉には、さすがの関口もビックリして目を大きくする。
『半年後におれの地元でヴァイオリンコンクールがある。おれはそこで、最終本選の指揮を振ることになっているんだ。きみが最終まで残らなければ、競演は無理な話だけどね。そこまでこれたら一人前として認めてやろう。今のお前は、蒼にふさわしくない!』
愉快そうに笑うショル。
関口はぎゅっと拳を握った。
自分はふさわしくない?
それは常々自問していること。
いつまでも半人前ではどうしようもないことくらい分かっているのだ。
『受けてやろうじゃないか!ゼスプリの新人音楽祭だろう』
『知っているなら話が早い』
『ふん!』
結局、ショルのほうが一枚上手だと圭一郎は思う。
でも。
これで。
自分の息子が世界に飛び出す機会ができたことを嬉しく思う。
世界に飛び出したショル。
彼の世話をしてきたけれど。
本当に世話したいのは。
圭。
圭一郎だって、自分の息子が一番に決まっている。
なんとか世界にひっぱりだそうと思っていたところだったからちょうどよかった。
この状況を内心喜ぶ圭一郎。
その反面、心配そうに二人を見守っていた蒼。
おろおろして、なにか言いかけて咳き込んだ。
吸入くらいでは対処できなかったらしい。
「蒼?」
中くらいの発作かもしれない。
苦しそうに喉が鳴る。
関口はぎゅっと抱きしめた。
「蒼?発作かも知れない……」
圭一郎は二人のところに駆け寄った。
「とりあえず家に連れて行こう。往診してくれる医者がいる」
「父さん……」
こういうときは頼りになる。
すがるような思いで父親を見上げる。
彼は驚いているショルティに声をかけた。
『ショル?有田に来させるから。帰れるね?』
『大丈夫だよ。関口』
関口に抱えられるようにして、ホテルを後にする蒼。
朦朧としている意識の中、きちんとショルに挨拶できなかったのが失礼な気がしてならなかった。
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