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30 関口邸1
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関口家は、東京郊外にある閑静な住宅街にあった。
広い庭に広い家。
だけど、ここに住む人間は少ない。
関口が家を出て。
残されたのは妹一人だ。
圭一郎もかおりも演奏で留守にすることが多いし。
広々とした家に家族が揃うのは、久しぶりなことであった。
「ただいま~」
かおりはキャリーケースを引っ張りながら、居間に入ってくる。
中では圭一郎が、ぼんやり楽譜を眺めているところだった。
「あら?いたの。今日はショルちゃんを送っていくんじゃなかったの?」
今まで静かだった室内は賑やかになる。
彼女は、関口家のムードメーカーだ。
「いや。ちょっと問題が発生してね」
「あら~。いやだ。圭ちゃんは、問題だらけじゃない」
「冗談で言っているんじゃないよ」
彼女は首を傾げる。
「どうしたの?」
彼は楽譜をテーブルに載せると、ため息を吐く。
「悪いことをしてしまったな。圭と蒼が来ているよ」
「ま!蒼ちゃんが来てるの~?」
そこまで話を聞くと、彼女はさっさと奥の部屋に向かう。
高級住宅街に大きな平家の家だなんて、資産があることが一目瞭然だ。
広い屋敷のような造り。
玄関を入ると、和風の構えだ。
「かおり!最後まで話を聞きなさい」
圭一郎の声なんてお構いなしで、彼女は「ルンルン」と廊下を抜けて、関口の部屋をノックする。
彼が出て行ってから、誰も出入りしていない部屋だ。
「圭?蒼ちゃんが来ているんですって?」
事情を知らない彼女は、にこやかに扉を開ける。
「母さん」
静まり返っている部屋の雰囲気に、彼女は首を傾げた。
「どうしたの?圭」
彼はベッドの側の椅子に、青白い顔をして座っていた。
「蒼ちゃん?」
ベッドで眠っている蒼は微動だにしない。
疲れも出たのか。
ぐっすり眠っていた。
彼の腕から伸びているライン。
それを視線で辿っていくとカーテンレールのところに小さな点滴がぶら下がっていた。
「まあまあ」
関口の顔に母親は、ますます苦笑する。
彼の表情を見れば状況は一目瞭然だった。
「また、圭ちゃんの悪戯ね」
「人聞きの悪いことを」
やっと追いついた圭一郎は、後ろから声を上げる。
「圭ちゃん」
「蒼はどうだ?」
「む~」
関口は、圭一郎をじ~とにらむ。
「悪かったって!そう睨むな。こんなことになるなんて思わなかったんだから」
これは本当のこと。
蒼が喘息の発作を起こすなんて思ってもみなかった。
「あなたのいたずらは、昔から度が過ぎるのよね」
「……っ」
返す言葉もない。
悪戯ではないが、圭一郎のやることは全て裏目に出ることが多い。
昔から子どものような性格の圭一郎。
レベルは一緒かもしれない。
「蒼ちゃん、大丈夫なの?」
「喘息の発作だった。でも、気管支を広げる点滴してもらって落ち着いたみたいだ」
「そう。今晩は泊まっていきなさい。明日は月曜日でお休みなんでしょう?」
泊まる?
ふと気づく。
ここに、圭一郎とかおりと自分がいるなんて、何年ぶりくらいの話だろう?
なんだかほっとした。
元はといえば、圭一郎の仕出かしたことが引き金になってはいるが、今回ばかりは彼がいてくれて助かった。
てきぱきと対応をしてくれた父親がいることで、安心も出来たし、すぐに医師の診察を受けることができた。
往診してくれた医師は圭一郎の友人だから、日曜日の朝でも快く往診をしてくれた。
関口一人だったら、こうは行かなかっただろう。
「そうだな」
蒼が元気になったら、すぐに帰ろうと思っていたけど。
「今日は泊まっていくかな」
関口はそう答えた。
圭一郎とかおりは、視線を合わせて微笑する。
「久しぶりだ。家族が揃うのは」
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