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30 関口邸3
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「ちょ、ちょっと!関口!!」
失礼な。
大笑いしている関口はごめんと何度も言った。
「怪しくはないよ。おれが連れてきたんだ」
「お兄ちゃんの知り合いなの?」
彼女は、蒼のことをじっと見つめる。
お兄ちゃん?
お兄ちゃん!??
「お兄ちゃん!?お兄ちゃんって、関口の妹!?」
彼女を見ても関口の面影は無い。
ギャルだし。
蒼は、ギャルに偏見があるらしい。
「そ。おれの妹。朱里。あかりって言うんだ」
口をぱくぱくさせている蒼。
それを無表情に見ていた彼女の携帯がけたたましくなる。
彼女は、出かけるところだったのだろう。
手に提げていたかばんから、ピンクのきらきらした携帯を取り出した。
「はい。そう。奥さんは?うん。今から行くね」
お、奥さん!?
関口はビックリして妹に問いただす。
「お前!奥さんって……!」
「はあ?なに?お兄ちゃんには関係ないじゃん」
「朱里っ!」
怒り出しそうな関口を押しのけて、蒼が声を上げる。
「ふ、不倫なんて!よくないよ!」
今度は関口も驚く番だ。
「蒼っ!?」
突然、初対面でそういうことを言われても困る。
朱里は顔をしかめて蒼を見た。
「はあ??」
「こ、子どもとか出来ちゃったらどうすんのさ!」
「はあ?うざいんだけど。なにこいつ」
「ダメだよ!」
お父さんのいない子なんて。
可哀相すぎる。
自分みたいな思いはさせてはいけない。
蒼は、気分が高ぶっているのに気付いていない。
「それだけは、だめだよ……っ」
咳が止まらない。
大きく息を吸ったから刺激になったらしい。
「蒼。もういいよ」
そこで、関口のストップが入る。
蒼が咳き込んでいても、彼女はお構いなしだ。
少しうろたえてはいるものの、すぐに方向を変える。
「バカっみたい!病人はおとなしく寝てろっつーの!」
さっさと廊下を足早に歩いて去っていく彼女。
蒼の頭のなかは、ぐるぐるいろんな思いが渦巻いていた。
お父さん。
お父さん。
手を繋いだり、おんぶや肩車してもらって甘えたかったんだ。
自分の父親がどんな人なのか?
ずっと考えていた。
本当のお父さんに逢ってみたい。
そういう思いは強い。
子どもはいつになっても親を追いかけるものである。
蒼もそう。
だから、不幸な子を産むような行為だけはやめてもらいたいのだ。
蒼はぎゅっと目をつぶる。
「蒼。おいで」
関口は、蒼を抱きしめて、部屋のベッドに連れていく。
落ち着くまでは抱いていたほうがよいだろう。
いつもそうだ。
関口に抱いてもらいながら、蒼は呼吸を整えた。
「はあ、はあ」
部屋は暗くて心地いい。
蒼の荒い呼吸だけが聞こえた。
「ごめんね。関口。ちゃんと病院にいくから」
ぽんぽんと背中を軽く叩いていた関口は苦笑する。
「いいよ。蒼には迷惑かけたしさ」
「おれさ」
「うん」
「今は父さんがいるけど。寂しかったんだよ。お父さんとお母さんと……。三人で歩いている子が羨ましかったんだ」
「蒼」
「やっぱり。だめだよ。お父さんがいないのは」
関口は今まで、蒼がなぜそんなに朱里を怒っていたのか分からなかった。
だけど、やっと理解する。
蒼は、自分が寂しかったから。
そんな子が生まれないようにしたかったのだ。
彼女が不倫を続けて子どもができるかどうかはわからないことだ。
だけど、もしそうなってしまったら。
そういう可能性があるなら止めてもらいたい。
それが蒼の願いだったのだろう。
「蒼は本当に周りに気を使うんだから。優しい子だね」
「……」
優しくなんかない。
ただ、自分と同じ運命の子はいけないと思っただけだ。
「前にさ。蒼は、おれに自分以外の奴に優しくしないでって言ったよね」
「うん」
「それをおれも言ってもいい?」
「関口?」
蒼は顔を上げる。
関口の顔は月影でしか見えない。
彼がどんな顔をしているのかは分からなかった。
「蒼が他の男と夜を過ごしたのかと思うと、辛かった。でも、こうして戻ってきてくれたし。よかったと思っている」
今回のことは、本当に申し訳ないことをしたと反省している。
人のことは言えない。
だけど、一人で待っている夜がどんなに嫌なものか知っていたくせに。
関口にも同じ思いをさせてしまった自分はひどい人間だと思った。
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