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32 路地裏の出会い5
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「頭痛いの?」
苦笑してタバコをふかす桜。
「あんなに飲んだことありませんから!」
半分怒った口調で話す。
今日は、市民オケもないし。
明星の方はしばらく休むことにしたのだ。
この調子だと、コンクールの準備だけで、手一杯の気がしたからだ。
柴田には日中に会ったから抗議をしてきたけど。
彼はニコニコするばっかりで取り合ってはくれなかった。
どうなっているのだか。
「まだまだ子どもだね。世界になんて恥ずかしくて出せないぞ」
桜は関口を見てニヤっと笑う。
むっとした。
「昨日はちゃんと弾いたんです!レッスンをつけてください」
「はあ?あれでちゃんと弾いたって言えるのかよ」
桜は爆笑する。
「な!」
「もっとましになったらレッスンはしてやるって。それまでは、ここで嫌と言うほど弾くんだね」
「ちょ、ちょっと!おれには時間が」
「だから!そう思うんだったら、さっさと腕を上げな」
なんなんだ。
この桜って女。
関口は閉口する。
これでは話が堂々巡りだ。
決して交わらないだろう。
どうして柴田は、こんな女を紹介したのだろうか。
これだったら柴田にレッスンを付けてもらったほうがよかった。
とんだことになってしまった。
蒼と過ごす時間だってないのに。
楽器を出して、ピアノで音程を合わせる。
しかし。
こんなに適当な飲み屋なのにピアノだけは一流だ。
世界でも愛用されているスタンウェイのグランドピアノ。
調律もしっかりしている。
Aの音を基本に音を順番にとっていく。
その間、桜は開店の準備をしていた。
そこに客第一弾がやってくる。
「来てやったぜ~」
男は昨日も来ていた。
確か関口の演奏に野次を飛ばしていた奴だ。
「ちぃ」
嫌な奴が来たと思う。
「よ!今日も兄ちゃんのヴァイオリン聞きにきてやったぜ」
「それはどうも!」
視線も合わせたくない。
しかし、オヤジはにやにやしてカウンターに座った。
「まあまあ、そう嫌な顔すんなって!演奏家はみんなこんなふうに愛想ないのかよ?桜」
大きな声で笑うオヤジ。
桜も苦笑した。
「あたりまえだろ?演奏家はしゃべんなくたって、気持ちを伝えられるんだ。言葉なんていらないんだよ」
常連なのだろう。
オヤジが注文をしなくても、彼の前にはビールが出てくる。
「おっす!」
その間にも、続々と昨日とおなじみのオヤジたちがやってくる。
なんだかんだ言って繁盛しているのではないかと思う。
平日なのに。
こんなに飲みに出歩いているやつは多いのだと感心した。
「今日はなんか、気分がいいから、明るい曲を頼むぜ~!」
「そうだそうだ~!」
始まった!!
関口はため息を吐いて、ヴァイオリンを弾き始めた。
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