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36 四重奏1
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文化祭。
星音堂職員にとったら一大イベントである。
秋の文化祭も迫ったこの日。
職員たちは練習にいそしんでいた。
「ノン!そこ!発声が甘いわ!」
メガネを掛けた女性の声が響く。
怒られた吉田は苦笑いだ。
「さ、もう一度。『あ』の口で、喉の奥を開いて!」
ピアノの伴奏に合わせて一同は発声をさせられていた。
厳しい。
水野谷の今年の意気込みは、半端ではないということがひしひしと伝わってくる。
今日は彼が事務室の留守を預かって、他の者たちはこの練習室に集められていた。
「いいですか!今のところ、神崎先生の曲は2/3くらいですけど、これからもっと高い音域の曲が出来るかもしれません!今から喉を軟らかくして、どんな音域にも対応できるようにします!」
「は~い!」
「きちんと発声をしてから、曲の音取りをします。今回はミュージカルなので、全部のパートを覚えてもらいます!それから、適切な役に割り振りますからね」
「ぜ、全部ですか!!」
一同は瞳を丸くする。
それは厳しい。
まあ、素人の集団なので、ミュージカルといっても、上映時間は短くしてもらっている。
予定では30分程度だ。
しかし。
なかなか素人の蒼たちには、きついことだ。
一同はお互いの顔を見合わせてため息を吐いた。
「ノンノン!そんな暗い顔をしないで!声まで沈んでしまうでしょう!表情は明るく。唇のはじを上げて!」
発声担当をしているソプラノ歌手の南は、一同に厳しい言葉を投げかけた。
こんな特訓がしばらく続くのかと思うとげっそりだ。
「もう一度!」
一同は口を大きくあけて精一杯の声を張り上げていた。
「ち、ちょっと待って」
弦の余韻を残して室内は静寂に包まれる。
そこで関口は楽譜を見た。
「ここのところって、一同が揃ってこれからの未来に希望を膨らませるところだろう?もう少し、低音を抑えて、セカンドが出たほうがいいんじゃないかな?」
雪田はヴァイオリンを抱えて黙って楽譜を見ている。
「確かに。低音が前面に出ると重くなるしな。このセカンドって、鳥のさえずりみたいだし」
佐伯も関口の意見に同意する。
「もう一回やってみよう」
「雪田は、思いっきり弾いていいけど、あんまり力むなよ」
彼女は頷く。
「わかった」
「じゃあ、もう一回だ」
関口の身体の揺れに合わせて一同は弦を引く。
もうこのメンバーでの練習も慣れてきたところだ。
みんなセミプロ演奏家だが、それぞれのレベルは高い。
そんなメンバーでのアンサンブルは、関口にとったら面白いものだった。
みんなが彼のイメージ通りの演奏をしてくれるのだ。
関口の意見に対して、自分のイメージをはっきり持っている佐伯や横田、雪田たちはそれぞれの思いを生かしながら演奏を作り上げていた。
「いいんじゃないか?」
佐伯は問題の部分を引き引き終わると声を上げる。
「よし、続けよう」
関口の意見に軽く頷いてから演奏は続く。
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