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ふんふん怒りながら歩いていくと、彼女は相変わらず愛らしい笑みを見せていた。
「あら、いいじゃない。可愛いんだから」
「あの!可愛いって、男に言う言葉ですか!」
隣に立っていた水野谷と横川も苦笑している。
なんてこと。
「そんなことは、どうでもいいんだって」
どうでもよくない!
抗議しようとすると、目の前に楽譜を突き出された。
「へ?」
「ここの、にゃんこ登場シーンをちょっと手直ししたいんだけど」
「ええ!」
今更、困る。
やっと覚えてきたところだったのに。
変えられても、伴奏とだって合わせるのにやっとなのに。
「でも」
「大丈夫!姫のところの伴奏は、ヴァイオリン1本にしてあげるから。二人で練習しな」
「は?」
「だから!伴奏がここはヴァイオリンのソロにするって言っているの」
関口と?
二人で?
きょとんとしている蒼を置き去りにして、神崎はどんどん話を進める。
「ちょっと、えっと。ヴァイオリンの子……」
彼女は片付けを済ませている関口を見つける。
「そこの!ちょっと」
関口も同様だ。
自分が呼ばれているなんて気付いていない。
きょろきょろしていた。
自分?
そんな雰囲気だ。
もうめんどくさい。
彼女は側まで行くとらさっさと関口の腕をつかんだ。
「ほら!こっちだよ。王子様」
「は?」
周囲の視線がいたい。
「蒼が姫で関口が王子かあ」
水野谷は、苦笑しているがそれどころではない。
さすがに周囲の人も気付いたのだろう。
笑いが起こった。
なんてこと!
どんどんバレているじゃないか!
蒼は逃げ出したいくらいの衝動に駆られた。
「ふうん。そういうことだったんだ」
水野谷の隣の横川まで苦笑している。
「ち、ちが!」
蒼は、必死に抗議するが遅い。
「何が違うって?」
水野谷は意地悪だ。
「あ、あの。課長」
「まあまあ。仕方ないじゃないか」
「仕方ないって!」
周囲の好奇心の視線を受けながら、関口は連行されてくる。
「打ち合わせしているんだからきなさい」
「あのね!神崎さん!あんたねえ……」
関口は抗議をしていた。
慌てているのは蒼や関口、本人たちだけだ。
周囲の人たちはニヤニヤして片付けに戻った。
「いいじゃないの。どうせいずれはバレることでしょう?」
「それはそうだけど」
「さっさと来なさい!」
おろおろ心配している蒼の元にきた関口は、気まずそうに笑う。
「関口」
「すまない。蒼」
「ううん。ごめんね。関口」
お互い、何に対して謝っているのか分からない。
二人は苦笑してしまった。
「本当、見せ付けられても困るんだけど」
は!っとして顔を上げると、神崎が楽譜を持って立っていた。
「ほら!さっさと時間ないんだから。ここのにゃんこの登場シーンを今日、即席でヴァイオリンソロにしておいたから。あんたたち二人で練習してきてね」
「ええ!?」
関口は目を白黒させている。
「どうせいつも一緒にいるんだからら仕上げられるでしょう?明後日の練習までになんとか形にしてきてね」
手書きの楽譜を渡されて、蒼と関口は顔を見合わせた。
「じゃあ、お疲れ」
「ちょ、ちょっと」
勝手に自分の言い分だけを伝えて、神崎はホールを出て行った。
「嵐のような子だな」
横川も苦笑だ。
「大丈夫だろう。そんなに難しくはなさそうだ」
横川は関口を見る。
「はい」
「頼んだよ。コンマス」
「はい」
横川が帰るので、見送るために水野谷も一緒にホールから消えた。
取り残された二人は、楽譜に視線を落とす。
「おれ、自信ないよ」
困っている蒼を関口は優しく見る。
「なんとかなるだろう。一緒にやれば大丈夫だ」
「本当?」
「任せろって。おれがみっちり教えてやるから」
なんだかほっとした。
蒼は楽譜を抱きしめて、ため息を吐いた。
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