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もう何度も聞いたから覚えてしまったのだろう。
蒼のパート。
子どもは柔軟だ。
隣同士の子と顔を見合わせて、首を立てに振って拍子を取っている。
仕舞いには蒼の真似をして登場してくる子もいた。
だけど。
彼らの歌は関口の伴奏に合っていた。
ちょっとした表現のゆれもぴったり。
どうして?
はっと身体を起こして辺りを観察する。
何で合うのだろう?
あの首を立てに振っているところ?
違う。
あれだけじゃない。
視線を凝らしてみると、子どもたちの呼吸が合っていることに気がついた。
彼らは無意識に顔を見合わせて歌うことで相手に呼吸を合わせているようだった。
そして、それを感じて関口も。
「そっか!」
蒼は、ぱっと立ち上がる。
そして一緒に歌った。
関口を見ているだけではだめ。
関口に合わせようとしないとだめなのだ。
彼は今まで自分に合わせようとしてくれていた。
それなのに。
自分で覚えたことを必死にやろうとしたばっかりに、テンポが転がっていた気がする。
「もう一回!関口」
にゃんこの登場に子どもたちは笑う。
「いいぞ~!にゃんこ!」
「がんばれ!にゃんこ!」
関口に合わせる。
きっと彼からは自分の姿が見えないから合わせにくいのだと思う。
だったら素の関口に自分が合わせないとダメだ。
関口を注意深く見ると、彼は弾きだすときに呼吸をする。
それに合わせて自分も呼吸をした。
そして彼が弓を返すときの早さに合わせて身体を動かしてみる。
ぴったり合うアンサンブルに、関口も気がついたのか。
微笑して続ける。
蒼も楽しい。
関口に一度合わせてしまえば、ズレることはない。
今までのようにぎこちない動きはどこかにいって、自由気儘に動き回れる。
これが猫。
勝手気ままでお天気屋。
だけど本当は、誰かといたい寂しがり屋。
さっきまでの自信のなさがなくなったらのびのび歌うことが出来た。
いつの間にか観客の数は増え、蒼が歌い終わる頃には拍手まで巻き起こっていた。
みんなの笑顔と拍手を受けると嬉しい。
これが音楽ってものなのだ。
辺りを見渡す。
「にゃんこ~」
嬉しそうに笑っている子どもたちは、蒼に飛びついてきた。
「わわ!」
「抱っこして~!」
「おれが先だよ~!」
「あたしが!」
わいわい騒ぎに取り巻かれている蒼を見て、関口は苦笑した。
「よかったな。蒼。もう大丈夫だ」
「関口」
感激していた。
自分の作った音楽がこんなにも人の心を動かせるだなんて。
「関口、おれ」
嬉しい。
蒼はぎゅっと関口に抱きつく。
が。
猫の顔が大きくて届かない。
「あれれ?」
関口は爆笑した。
「お前のクセは分かったから。おれもなるべく合わせる。だけど、お前の顔が見えないから合わせずらいんだ」
「大丈夫だよ。おれが関口に合わせるから!」
「ぷ」
「何で笑う?」
「いやあ。頼もしいにゃんこ姫だと思ってさ」
「なにさ!関口なんか王子じゃん。王子って顔かよ」
「あ~言ったな!」
痴話げんかのようなものが始まりそうになって、はっとする。
まだ観客がいたんだった。
関口は観客に挨拶をして、さっさと蒼猫を連れ出した。
「ちょ、ちょっと」
「このままでいいじゃん。帰ろう」
「関口!」
結局。
蒼はそのままの格好で車に乗せられた。
信号待ちで止まると隣の車の人に不審な視線を向けられたことを言うまでもない……。
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