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43 年越し温泉旅行3
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しかし。
到着してみると、目の前に立っている旅館は酷いものだった。
外観は木造平屋。
よく言えば趣のある、大正ロマン風。
悪く言えば、掘っ立て小屋。
玄関の戸もたてつけが悪くて、よほど強い力がないと開かない。
「こんにちは」
関口が声を上げると、中からはそこらへんにいるおばちゃんみたいな主婦が顔を出した。
「あら、いらっしゃい」
「あ、ど、どうも。予約していた関口です」
「あ、そう!どうぞ!上がって!」
なんだか近所の家に遊びに来た雰囲気。
中に入って玄関の目の前は受付なのだろうか?
おじいちゃんが一人、座っている。
そして、その隣の和室は、民家の居間みたいになっていて、コタツに子供が寝転がってテレビゲームをやっている姿が見える。
「へ?」
いいのか?
こんなところで。
廊下を挟んで反対のところはちょっとした広間になっているが、がらんとしていて、真っ暗だ。
誰もいない。
「ささ、どうぞ!」
おばちゃんはぽかんとしている二人を急かして、部屋に案内してくれる。
「ごめんなさいね。冬休みだからさ」
一瞬、なんのことだか分からないが、子どものことを思い出す。
「あ、ああ。いいんです。別に」
関口は笑っているけど、口元が引きつっている。
それを見て蒼は吹き出しそうになった。
「家は家族でやっているものですからね。ごめんね。なにかと不便をかけるかもしれないね」
おばちゃんに案内されてやってきた部屋はただの和室だった。
部屋と言うほどの物ではない。
廊下に出るには普通の障子を開けて出るようになる。
鍵がついているわけではないし。
「……」
「……」
蒼と関口はぽかんと部屋を見ていた。
隣の部屋とは襖一つで隔てられているので、テレビの音などガンガン聞こえてくる。
「一応、秘湯なもんでね」
おばちゃんは豪快に笑う。
さすがに、関口の顔からは笑顔が消えていた。
秘湯とこの造りと、どう関係があるのかは不明だ。
「襖はそんなに簡単には開かないようにつっかえ棒しているから、安心してね」
「つ、つっかえ棒?」
育ちのいい関口にとったら初めての経験ではないか?
蒼はちらっと彼を見上げて苦笑してしまった。
「障子は鍵がかからないので貴重品は持ち歩いてね。後、すぐそこに番頭、って家のじいちゃんなんだけど、それがいるから、怪しい人が入ってきたらすぐ気付くと思うから安心してね」
本当だろうか。
番頭って言っても。
さっき受付らしいカウンターに座っていたおじいちゃんを見る。
どう見ても、視力が弱そうだ。
新聞を眺めるのに苦労している。
当てにはならないだろう。
「はあ……」
「まあまあ。関口」
蒼はがっかりした関口を励まそうと背中を叩いた。
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