アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
44.旅立ち1
-
新しい年になると、この町にも本格的な雪の季節が到来する。
毎日のように雪が積もり、黒い道路が恋しい今日この頃だ。
その雪も2月に入るとますます多くなってくる。
どかどか降ってくる雪。
春が近づくと雪は重くなる。
湿気を含んだ雪はずっしりとしていた。
家がつぶれたりするのも頷ける。
星音堂職員も毎日のように雪かきに駆り出されて大変だった。
朝の内に大掛かりな雪かきをするせいで、始業と同時に職員には疲労の色が浮かんでいる。
「は~……」
ため息を吐きながら仕事を進めている星野。
蒼も同感だ。
毎日の雪かきのせいで身体中がギシギシ言っていた。
「もう2月になったって言うのに。本当に止まないですね」
吉田もぼんやり窓の外を眺めていた。
彼の視線の先には、星音堂の林が広がっている。
木々は真っ白で、枝は雪の重みでしなっている。
落雪注意だ。
蒼は筋肉痛に鳴っている腕をもう片方の腕で擦りがっくりする。
疲労。
疲労の要因はもう一つある。
それは通勤。
いつもだったら自転車で、すいすい通勤することが出来るのだが、雪が積もるとわだちなどが出来て危ないのだ。
自転車通勤は諦めて徒歩できていた。
しかし、徒歩と言っても転ばないように歩くためにずいぶん神経を使うものだ。
そして、それは車通勤の人にとっても同じことらしい。
いつもよりも早めに家を出て、車の雪を綺麗にして……。
高速が止まってしまったり、慎重な運転で道路は渋滞だ。
身も心も疲れていると言ったところだろう。
外を見ると、灰色の空から大きな雪が降ってきていた。
これは積もりそうな勢いだ。
午後になったらまた雪かきに出ないと。
玄関先で来客者が転倒したなんてことになったら大変だもの。
蒼は午後からの雪かきを思い、ため息を吐いた。
そして、パソコンに視線を戻そうとして、ふと卓上カレンダーに視線が止まる。
もう少しなのだ。
関口が旅立つ日。
2月10日からコンクールが始まるので2月3日には日本を発つことになっている。
明日だ。
明日。
とうとう明日。
関口は日本を離れる。
「はあ」
ため息が出た。
早いものだ。
ショルティがやってきて。
関口がコンクールに出場することになって。
半年になる。
ずっと桜について指導を受けていた関口。
年が明けてからはきちんとした指導を受けているみたいだ。
桜はスパルタらしい。
終わりなく指導が入るので関口は帰宅するとぐっすり眠っていることが多い。
そんな彼と一緒にいられるのも、今晩まで。
コンクールは勝ち進めば全部終わるまで約一ヶ月はあちらにいることになる。
一人になることが恐い今日この頃。
寂しくなってしまう。
しかも、自分が側で支えて上げられないのが辛いのだ。
もう一度、外に視線を向けてぼんやりこれからのことを考えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
306 / 869