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47.ATTO PRIMO4
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『ささ。他のやつらの情報も収集しておくよ。今日は缶詰だからね』
桜に促されてとぼとぼホワイエを横切る。
ほかの人の演奏……。
ピゼッティレベルの演奏者がゴロゴロいるのだろうな。
大丈夫だろうか……。
不安な気持ちのまま桜の後ろを歩いていくと、声をかけられた。
顔を上げる。
そこにはショルティが立っていた。
『圭!』
『っ!』
一瞬むっとしてしまう。
嫌な奴に出くわした。
ファイナルに残るまでは逢いたくなかったのに。
しかし、そんなことはお構いなしでショルは笑顔で近付いてくる。
『そう嫌な顔しなくてもいいだろう?半年振りの再会だ』
『誰のせいでこんなことになったと思っていんだよ?』
『誰のせい?これはキミの選んだことだろう?なにもおれは強制していない』
確かにそうだ。
図星だから言葉に詰まる。
『前評判全くないけど大丈夫か?』
『そういう心配はされたくないね。おれはおれの全力を出すまでだ』
『ふうん。強がっちゃって』
険悪なムードの二人。
ミハエルはオタオタしている。
『でも待っていたんだ。本当に来るか心配だった』
ふと瞳の光を弱めて、ショルは口調を和らげる。
一瞬、空気は緩むが、関口はそんなのに流されるタイプではない。
む~っと顔をしかめる。
馬鹿にされたと思ったようだ。
『約束したのだ。おれ、約束は守る主義だ』
関口の対応に一瞬、軟らかい表情だったショルも眼差しを強くした。
『律儀な男だ』
ショルは関口をまっすぐに見る。
『ファイナルまで残らないと蒼は頂く』
『くれるなんていってないぞ!』
『さてね。一人前でもないキミには任せられないって言っただろう?』
『む~!』
ショルは愛想よく手を振る。
『まあ、せいぜい頑張って』
『待っていろよ!絶対にファイナルまで残ってみせるからな!このキザ野郎!』
大きな声で叫んではっとした。
ホワイエにいた観客たちは一斉に関口を見ている。
それもそのはずだ。
ショルはこの町ではアイドルなんだもの。
彼と話しているだけで注目されるのに。
アイドルに向かって宣戦布告。
それもどこで覚えたんだか下品な台詞を大声で絶叫してしまったのだから。
我に返ったときは遅い。
ショルは手を振りながら軽快に去っていく。
残された関口ほど惨めなものはない。
桜もミハエルもさすがに他人のふりをしていた。
「はあ~!しまった!」
やばいことになった。
あっちのほうで前評判のいい出演者たちを待ち構えていた地元誌のマスコミが一斉に関口のところに走ってくる。
『キミ!あのショルティに宣戦布告とはどういうご関係?』
『どういった内容で口論になったんですか?』
『お名前は?何番の出演者の方ですか?』
「あ、ちょ、ちょっと!」
困る!
困るのだ!
本当に。
あんまり注目されたくない!
さっきまでの元気はどこへやら。
おどおどしてしまっている関口を押しのけて桜が前に出る。
『あなたは?』
『誰なんですか?』
パシャパシャフラッシュがたかれる。
『あたしはこの子の保護者。この子はエントリー番号8の関口圭。日本人。ショルとの因縁を晴らすためにこのコンクールに出場したのよ』
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