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53.心に決める4
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30分後。
結局、戻ってきたのは水野谷だけ。
彼は別段、何も言わない様子だった。
なんだったんだろう?
職員たちは気になったけど、彼自身から話が出ないのだから、わざわざ聞くと言うことはしなかった。
そわそわした午後は長い。
年度末の書類もあらかた片付いてきたので、職員の表情も明るかった。
「お。時間だな。よし!今日の日勤は帰るぞ!」
いつもだったら帰宅は自由なのに。
水野谷は珍しく声を上げた。
「え、でも。課長。おれはもう少し」
「仕事が好きだって奴は残っていろ」
「ええ!なんだかひどい言い草じゃないですか??」
吉田はしゅんとする。
「そうしょげるな。意味はない」
「意味がないのも傷付く……どうせおれなんてそんな価値もない人間ですよ~だ」
ますます落ち込んでしまった吉田。
何をしょげているんだか。
遅番の星野は苦笑する。
「そういう暗い奴がいると、本当におれたちの仕事がはかどらないから、さっさと帰れ」
「星野さんまで……」
なんだか見ているほうが可哀相だ。
さすがの尾形も彼の肩を叩いて励ましている。
「じゃ、おれは帰るからな。蒼も帰ること」
「え?」
なんで自分?
連休明けでたまっていた仕事を少しやってしまおうと思っていたのに。
「何があるか分からないんだから。無理はしないほうがいいだろう?」
「でも」
「いいから」
水野谷はさっさと蒼の腕を捕まえる。
「帰るぞ!」
「な、ちょ、ちょっと!」
「課長!今日はなんだか強気モードですね♪」
星野は爆笑だ。
「蒼を連行して、なんかする気なんじゃないでしょうね?関口に怒られますよ?」
「星野!おれにはそういう趣味はない!」
わ~わ~騒ぎになっている中、結局、水野谷に連れられて外に出るハメになった。
パソコンの電源とかも切ってないのに。
星野がやっといてくれるって言っていたけど、後でどんな見返りを求められるのか考えただけで恐い。
「課長、一体どういう……」
そこまで言ってはっとした。
星音堂の前には見知った車が止まっていたのだ。
「あれ?」
窓が開くと、中から圭一郎が大きく手を振っている。
「お~い!蒼、こっち、こっち」
「え?は?ええ?」
圭一郎と水野谷を交互に見る。
「すみません。課長さんをお使い立てしてしまって」
「構いませんよ。その代わり、あの約束。忘れないでくださいね」
水野谷は眼鏡をキラリンと光らせる。
「もちろんです。このご恩は忘れません」
なんの相談なんだ。
なんだか二人が時代劇の悪役に見える。
さしずめ、蒼は売られていく町娘だろう。
「ささ、送ってくよ」
「えっと。あの?」
「じゃあな。蒼」
水野谷はさっさと蒼を車に押し込めると、駐車場の方向へと歩いていってしまった。
「どうなってるんですか?お父さん」
「どうもこうもないわけよ」
「へ?」
「まま。ともかく。どうしよっか?食事って時間でもないしねえ~。アパートに送ってくか」
「あ、あの」
「ん?」
隣にいる圭一郎を見て言いにくそうに続ける。
「おれ、ちょっと事情があって実家にいるんです」
「そっか!圭もいないしね。一人じゃ、さぞ寂しかろう」
「はあ……」
「ともかく、じゃあキミの実家に行こうか」
彼は満足そうに笑ってから前を向いた。
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