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55. Finale1
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ファイナル。
この日のために戦い抜いてきた音楽家たちを一目見ようと客席は満員だった。
関口とショルティの演奏はひときわ客席の興味を引いた。
あんなに喧嘩していた仲とは思えないほど、二人の息はぴったりだった。
演奏が終わる頃には大喝采が巻き起こっていた。
「うん。よくなってきた。圭」
演奏を聞き終えて、拍手が鳴っている間。
圭一郎は微笑を浮かべる。
その様子を隣で見ていたかおりも笑顔だ。
「頑張ったわね。あの子」
「そうだね。結果はどうあれ。これが第一歩になるんじゃないかな?」
「ええ」
親として温かい目で見守っていた二人。
その隣にいる桜とミハエルもほっとしたようだった。
『終わったね。これで』
『本当に。あたしの肩の荷も下りたわ』
『お疲れ様』
『本当。疲れたわよ。若い子を育てるなんて慣れてないからね。どうなることかと思ったけど。あたしが何もしなくても、あの子は立派に大きくなってきたわ』
『……桜』
『ん?』
『また演奏しないか?一緒に……』
『そうねえ~……考えてみるわ』
『そっか』
そして。
蒼。
ぎゅ~っと手を握って固まっていた。
感動していた。
これが関口の演奏。
側にいるのに。
側にいただけでは彼のこと、なんにも分からない。
彼の演奏を聞くたび、彼がどんどん大きくなってくるのが分かる。
今日もそうだ。
日本を旅立つときとは違う。
もっとでっかい音楽だった気がした。
「すごいよ。すごい。関口はやっぱりすごいんだ……」
あんなに喧嘩していたのに。
ステージの上でいつまでも続く拍手に答えるようにショルと笑顔で頭を下げている関口。
燕尾服の彼。
いつもの関口じゃない気がした。
しかし、嬉しい気持ちがある反面。
いつも心の底に沈んでいる不安が顔を出す。
あの人は、どこかにいってしまう人なんじゃないか?
自分とは住む世界も違う。
世界に旅立たなければならない人。
蒼の元につないでおくなんて無理な話だし、そんなことは出来ないと思った。
きっと、彼の音楽を待っている人が世界中にいるに違いない。
「関口……」
そんな蒼の不安なんてちっとも分からない高塚は隣で嬉しそうに声をかけてくる。
「すごいですね!関口さん」
「え?ええ……」
「これからが楽しみです。最悪グランプリは逃したとしても上位には食い込むでしょうから。そしたら忙しくなりますよ~」
「え?」
「あちこちで演奏会の依頼も来るでしょうし。きっと海外公演なんかもやらなくちゃいけませんよね。CDデビューとか?プロの演奏家は本当に忙しいですからね!」
おれもしっかりインタビューして帰らないと……と最後に付け加える高塚。
そう。
そうだろうな。
きっと日本になんている暇ないのだろうな。
日本に来たとしても、忙しくてきっと一緒に住むなんて無理なんじゃないかな?
圭一郎やかおりみたいに……。
ちょっぴり悲しくなる。
喜ばなくちゃいけないことなのに。
分かっていることだったのに。
こうして突きつけられるとショックだった。
「ちょ、ちょっと。すみません」
蒼はいそいそとホールを出た。
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