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56.迷子の子11
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「いいんですか?そんなゆっくりで」
「え?いいの、いいの。あいつの居場所は分かったんだから」
「でも」
「まったく。黙っていなくなったりするんだから。怒ってやらないと」
「はあ」
古本屋を飛び出して到着したのは普通の一軒家だった。
ここに蒼が??
「こんばんは~!家の蒼のやつ、来ています?」
圭はチャイムも鳴らさずに勝手に玄関を開けた。
すると、人のよさそうな優しい笑顔の女性が顔を出す。
「あら!よく分かったね」
「ええ。古本屋のおばちゃんに話を聞いてピンときました」
中からはお祭り騒ぎみたいな声が聞こえる。
「もう手が付けられないな。すみません」
「いいの、いいの。蒼ちゃん来るの久しぶりじゃない。去年以来じゃない?あら?新しいお友達?」
女性は嬉しそうに高塚を見た。
「はじめまして。音楽の時間社の高塚と申します。えっと。圭くんのマネージャーをおおせつかりまして」
「そう。マネージャーさんなの!すごいね。関口くん、昇進したわね」
やっぱりどこに行っても二人の関係は聞かれる。
まあ、これは当然のことだろう。
女性に促されて室内に入ると、泥棒でも入ったかのちらかりだった。
中ではネクタイを頭に巻いている蒼と。
そして。
「柴田先生っ!何、蒼のこと拉致してんですかっ!」
圭の声に蒼と一緒になって箸を持って踊っていた柴田はハッとした。
「そんな恐い顔しないでちょうだいよっ!関口!」
呂律も回っていない。
もう。
この二人には困ったものだ。
「呆れて物も言えない」
「まま!そんな固いこと言わないでさ~!先生がご馳走してくれるって言うんだから、ほら!高ちゃんも、圭も座りなって!」
あはは~!と陽気に笑う蒼。
必死になって蒼を捜索していたのに。
結末がこれでは……。
なんだか圭が報われないようで可哀相に感じた。
「ささ。どうぞ」
柴田の妻に促されて結局二人もソファに座る。
「いやあ。お前のお祝いしてなかったじゃないか!コンクールのさ。だから、蒼とこうしてお祝いをしていたってとこだ」
「蒼は何もしてないし」
「そう固いこと言うなよ~!な~!」
「ね~!」
圭のお祝いなのに。
本人を差し置いて、蒼と二人で嬉しそうに乾杯をする。
「こいつら……飲みの動機を正当化しようとしている……」
圭はイラっとして二人を見ているし。
困ったものだ。
「で、この新顔は?」
柴田は高塚にからんだ。
「先生!この人は、何を隠そう、圭マエストロのマネージャーをやってくれる偉いお方なんですっ!」
蒼の説明はちんぷんかんぷんだ。
だけど、酔っ払いの筋道は要らない。
結局、理解なんてしていないのだ。
「おお!そうか!そうか!キミが圭マエストロのマネージャーをやってくれる偉いお方かっ!」
「よく言えました!」
「ひゅ~♪」
勝手に盛り上がってくれとばかりに圭は側にあったワインを取る。
「仕方ない。飲むしかないだろう。高塚も腹減っただろう?」
「え!はい」
「柴田先生はおれの恩師なんだ」
「え」
ビックリしてしまう。
この酔っ払いが?
この圭を育てた人?
目を疑いたくなるのも頷ける。
「今はこんなだけど……」
そう付け加えてからグラスを高塚に渡す。
「飲むしかないね。すみません!ご馳走になります」
台所から鍋を運んできてくれた妻に声をかけると、彼女は嬉しそうに笑った。
「どうぞ。私も大勢のほうが楽しいから嬉しいわ」
「いただきます」
鍋を突いて食べてみる。
おいしい。
肩を組んで歌い始めた蒼と柴田。
それを呆れながらも笑顔で見守っている圭。
手拍子をしながら笑っている柴田の妻。
なんだかあったかい。
高塚は思わず微笑む。
圭のマネージャーになるにはいろんな思いがたくさんあるけど。
だけど。
今日はここに来ることができて本当に良かった。
そう思った。
「ほら、お前も歌えって怒っているぞ。酔っ払いたちが」
ふと突かれて視線を上げると、ブウブウ蒼と柴田がこっちを向いて文句を行っている。
「は!すみません」
皿を置いて側によると、がっちり肩を捕まれた。
「へ!?」
柴田はにやっと笑う。
「さっさと歌え!」
「は、はい!」
「そうだ!そうだ!圭のマネージャーになるならそれくらい出来ないとダメなんだからね!」
「はあ」
「あのねえ。そういう条件は不問なのだが……」
蒼のへんてこな条件に一同は爆笑になった。
騒ぎは収まるどころか、圭や高塚を巻き込んで大きくなる。
楽しい時間はあっという間だ。
どんどん時間は過ぎて、夜は更けていった。
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