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58.雨の日に来たもの3
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「蒼、どうしよう。こいつ」
「そうだね」
台所からコーヒーを持ってやってきた蒼はおれの隣に座る。
そして、自分は人肌程度に温めたミルクをスプーンで猫に飲ませる。
むにゃむにゃしていた猫だが、ミルクが口にあてがわれると舌を出して舐め始めた。
だけど瞳は閉じたまま。
それを見守りながら、自分もコーヒーに口をつけた。
手渡されたそれは温かくて、自分の身体も冷えていたってことに気付かされた。
「しばらくは面倒みるしかないんじゃない?ここでは猫は飼えないんだけど。放り出すわけにもいかないし。誰かもらってくれるのを探すしかないね」
「そうだよね」
蒼の意見に同意する。
猫なんて飼ったこともないからどうしたらいいか分からない。
動物がいる生活なんて想像も出来ないのだ。
「蒼は猫、飼ったことあるのか?」
おれの隣で猫を抱っこしてミルクをスプーンで飲ませている様子を見てそう思った。
「猫は小さい頃に少し。すぐに死んじゃったんだ。あいつ。車に轢かれちゃって」
「そっか」
「気ままな奴でね。自由だったけど、すごくなついてくれて。よく一緒に寝ていたなあ」
「ふうん」
「圭はないの?」
「え?おれは」
色々事情があったから。
動物なんて飼えなかった。
いや、飼えないと思い込んでいたのかも知れない。
自分のことで精一杯だったから。
「たぶん欲しいって言ったら誰も反対はしなかったんだろうけど。なんだかそれどころじゃなかったからな。毎日ヴァイオリンの練習に追われていて。動物を飼おうなんて思ったこともなかったな」
「そうだったの?」
意外そうにしている蒼。
どういうリアクションだ。
「どういうことだよ?意外そうに見えるか?」
「うん。だって。圭って都会っ子でさ。なんだか友達とかと遊びまわっていたりしてそうだって思って」
そっち?
心外だ。
そんな風に思われていたのか。
「失礼だな。こう見えてもおれは音楽一筋なんだから。逆に音楽以外をやってこなかったから、他のことは知らないって言うデメリットも大きいがな」
「そうだったんだ。おれはてっきり。圭って何でもすいすいこなしちゃうし、友達もたくさんいるじゃん」
友達なんて人並みだ。
蒼が友達いなさすぎるんだっつーの。
そう思うけど、そのことはあえて言わない。
「友達って言ったって。みんな音楽関係で知り合った奴ばっかだよ。他の友達はいない」
「そっか」
「そうだって」
ミルクを飲ませ終わると、さすがに猫も落ち着いたようだ。
震えも幾分、治まってきているように見えた。
「明日、病院に連れて行く」
「え?病院?」
「うん。だって、どこか悪かったら困るし。なんでもないならそれまでだし」
「だけど、明日は仕事だろう?」
「大丈夫。日勤だし。定時で帰れば間に合うと思う」
「だったらおれが行くって」
「圭が?」
蒼はビックリしたみたいに顔を上げた。
「そんなに驚くことないだろう?」
「だって。大丈夫?扱えるの?」
「だ、大丈夫だって。おれだって」
おれのことを心配そうに見ていた蒼だったけど、信じてくれたらしい。
にっこり笑って頷く。
「分かった。じゃあ明日は圭に任せる!」
「お、おう!」
張り切って申し出たのはいいものの、大丈夫だろうか?
なんだか心配になってきてしまった。
おれは外の雨を見つめてため息を吐いた。
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