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59.春の受難2
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「どうせショルだろう?そんな奴と話すことない」
彼は眠そうに伸びをしてベッドに戻る。
いつの間に起きたのだろう。
確かに。
自分も慌てていたから大きな声で話していたのかも知れないけど。
ベッドに視線を向けると、けだもが圭の髪の毛をがじがじっと噛み付いていた。
そっか。
ここのところ、えさをくれるのは圭だから。
お腹が空いてちょっかいを出していたのだろう。
それで目が覚めたらしい。
「けだも~。もう少し寝かしてくれ!」
圭はけだもと戦っている。
布団をかぶって寝なおそうとするが、けだもは怯まない。
隙間に頭を突っ込んで圭の頭に顔をこすり付ける。
「う~、蒼~。けだもをなんとかして~」
「素直に起きてあげればいいじゃん」
思わず苦笑。
だけど、寝ている本人はそれどころじゃない。
布団をぎゅうぎゅう引き寄せてけだもから逃れようとガードしている。
中に入れないと分かったけだもは、今度は圭の上にジャンプして乗っかった。
「げふッ!」
「にゃ~」
さすがにこれは効く。
彼は諦めて身体を起こした。
「はいはい」
「にゃ~!にゃ~!」
圭の腕にすりすり頭を寄せる彼を見て蒼も爆笑だ。
「朝の戦いはエスカレートしてくな」
「蒼も笑ってるなよ。お前がごはんをやったっていいんだから」
「いいじゃん。けだもは圭のことが好きなんだから」
渋々起きだして台所に行く圭の足元を転がるように着いて行くけだも。
そんな様子を見ながら今度は蒼が布団に入る。
大丈夫かな?
ショルとの電話。
途中になっちゃったけど。
圭と直接なにかを話したかったんじゃないだろうか?
さっさと圭に代わってやればよかった。
うとうとそんなことを考える。
「けだもが来てから、まったくこいつのペースだよな。生活が」
朝ごはんをあげて戻ってきた圭は蒼の隣にもぐる。
「圭、いいの?ショルと話しなくて」
「別に。また用事があるならかけてくるだろう?」
「それはそうだけど。今日は圭といろいろ話しをしたかったみたいだよ?」
「別に。おれの方は話しがない」
それはそうかも知れないけど。
「この前のコンクールのガラコンサートを入賞者の地元でやろうって話だったんだよ?」
蒼の言葉に初めて興味を持ったのか。
圭は視線を向ける。
「ガラコンサート?」
「うん。決まったって。日本とイタリアとロンドンと」
「決まったって……おれはOKしてないんだけど」
「高塚くんともう話はついているみたいだよ?今日話ししたって。たぶん、朝になったら電話が来るんじゃない?」
圭は手を伸ばして自分の携帯を見る。
「メールが着ている」
「早い。高塚くん。いつ寝てるんだろう?」
メールを見ている圭の横顔を見ながらうとうとする。
もう少し。
自分もやっぱり寝ていたい。
圭に寄り添って瞳を閉じる。
食事を終えたけだもも、ベッドに上がってきて蒼と圭の間に座る。
そして毛づくろいだ。
毎食後の日課。
「本当だ。高塚から連絡がいた……蒼?なんだ。自分も二度寝じゃん」
圭は携帯を閉じて苦笑する。
けだもと一緒。
毛づくろいが終わると丸まって寝ているけだも。
蒼も同じような格好をして眠っていた。
ガラコンサート。
コンクールで入賞した人たちのコンサート。
今回のガラコンは入賞者3名が対象になる。
イタリア、日本、イギリス。
それぞれの入賞者の母国での凱旋コンサートになるようだ。
いろいろ忙しくなりそうだ。
まだきちんとしたリサイタルは開いていないからプロって言えるのかどうか分からないけど。
今回のコンクールを機に確実に彼を取り巻く環境は変っていた。
今までお世話になっていた明星オケは卒業することになったのだ。
どうしても演奏活動などが増えてくるとオケの練習に定期的に参加していくってことが難しくなってきているからだ。
かろうじて市民オケだけは団長のたっての願いから、練習は参加できる時で構わないと言う条件の下に継続することにはなったけど。
それでもあんまり休むことは出来ない。
オーケストラのコンサートマスターと言う役割は本当に大切なものなのだから。
高塚にお願いをして調整をしてもらっているけど、今回舞い込んだような海外の演奏となると、なかなか気軽に帰ってこられるものでもない。
「ま。やってみないことには分かりません……だな」
圭はため息を吐いて、自分の横で寝息を立てている蒼の頭を撫でた。
「ずっとこうしていたいな。蒼」
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