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59.春の受難10
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しかし、そうは行かないものである。
結局、変な精神状態での飲酒だったせいか、悪酔いしてしまったらしい。
「う~~。気持ち悪い……」
体調は最悪だ。
二日酔いなんて1年に1回あるかないかくらいのものなのに。
精神的なストレスと春と言う季節の変わり目の要素も重なって咳も出る。
常備している吸入薬を使ってみるけど、気分は最悪のままだった。
「失敗したぁ」
ぼんやりとベッドに寄りかかって床に座っていると、けだもがおもちゃを咥えて駆けてきた。
いつも圭は蒼よりも遅い出勤になる。
きっと毎朝こうして、蒼が出かけた後にけだもと遊んでいるのだろう。
習慣らしい。
ねずみのもこもこおもちゃを膝の上において嬉しそうに見上げてくる。
「けだも」
「にゃ~!」
遊べって言われてもなあ。
時計を見ると7時を回ったばかり。
ちょっとくらいなら遊んでやれるか。
おもちゃを取ってぴょんっと投げると、それを追いかけて駆けていく。
猫って言うのは単純な動物だ。
廊下の隅まで行って「う~、う~」と獲物を取る真似をしてから咥えて戻ってくる。
「また?」
「にゃ!」
何回くらいやると気が済むのかな?
ぼんやりしながらおもちゃを放った。
しかし、今回は途中まで駆けていったものの、戻ってきてしまう。
「にゃ~」
「なんだよ?遊ばないの?もう終わり??」
だけど、彼はいつまでも蒼を見上げて鳴いていた。
また放ってと言わんばかり。
「なんだ?めんどくさいな。お前」
仕方ない。
なんで取ってこないんだよ~。
もそもそ立ち上がっておもちゃを持ってくる。
すると、けだもは嬉しそうに蒼に飛びついてきた。
「おいおい。なんだよ?まだ遊ぶ気はあるのか?」
最初みたいに思い切りおもちゃを投げてみる。
すると今度は、だだだだっと走っていって獲物を咥えて戻ってきた。
なんだ?
なんで二回目は途中でやめちゃったんだろう?
おもちゃを見つめる。
おもちゃに変わりはない。
変わりがあったのは……。
自分?
投げ方か?
最初と三回目は気合を入れて投げた。
だけど、二回目は?
ぼんやりしてて、勢いがなかったのかも知れない。
「そっか」
そういうこと。
けだもは投げるスピードに反応しているのかも知れない。
こちらが手を抜くと彼もまた途中で追いかけるのをやめてしまうのだから。
「そっか。けだも、お前生意気だな。本当に」
苦笑して頭を撫でると嬉しそうに頭をくっつけてきた。
「可愛いなあ……あれ?」
これってあのことも一緒じゃないかな?
ふと思いついた。
自分は三浦に対してどんな態度を取っていたのだろうか?
もしかしたら無意識の内に、最初の印象で嫌なやつだって思っていたから、失礼な態度を取っていたのではないだろうか?
最初に失礼だったのは自分?
三浦と言う男は仕事に対する姿勢も悪いし、意欲もない今時の若者みたいなものだ。
だけど、根は悪い人ではないのかも知れない。
三浦がなかなかやる気が出ないのは、自分が嫌々やっていたからなのか?
彼だって他の課で頑張ってきた功績はあるのだから。
ここで仕事ができないわけがないのだ。
「よし」
蒼は気合を入れる。
少し変えてみよう。
急によくなるなんてことはないと思うけど、努力は必要なんだから。
「けだも。どうもな。よし。今日は美味しいご飯あげちゃうから」
蒼が立ち上がると、けだもはご飯だと理解したのか。
嬉しそうに蒼の後を駆けてきた。
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