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61.関口家騒動1
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新幹線の移動中。
椅子にもたれかかり、圭は大きくため息を吐いた。
今日何度目のため息だろう?
いらいらした気持ちを紛らわせようと、外を見たり、楽譜に視線を落とすがどうにもならない。
「まったく!どうしてこういう仕事を引き受けてくるんだよ……」
言うまいと思って、ずっと腹の奥にしまっていた言葉。
思わず出てしまう。
隣に座っていた高塚は首を竦めた。
彼が困るってことは重々承知だ。
だけど、どうしても言わずにはいられなかった。
「ごめん。言うつもりはなかったんだけど」
言ってしまってからでは遅い。
分かってはいるが……。
「いや。おれが悪いんです。どうしても押し切られてしまって。断ることが出来なかったから」
グレーのスーツ。
赤いネクタイは彼がおしゃれなことを物語っている。
一方の圭といえば。
普段着。
ただのシャツに黒いズボン。
ネクタイなんて締める気はさらさらない。
どうも不釣合いな二人がどこを目指しているのかと言うと。
それは東京である。
今朝、この新幹線に乗って上京することになった二人。
前の晩に東京からやってきた高塚は本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
昨晩のことを思い出しただけで腹立たしい。
イライラして眠れなかったことを思い出した。
「仕方ないって。そういうお前だって分かっていておれが雇っているんだから。おれの責任でもある」
「なんだかひどい言い草です。泣きっ面に蜂……」
いきなりことわざを言われても困る。
本当に同年代なのだろうか?
圭からしたら、彼は言動が年寄りくさく感じられた。
若さを感じないのだ。
そんなまったりしたところがあるから、こうして一緒に仕事をすることが出来ているのだろうけど。
「仕方ないんだって!もうやめ。分かった。諦める。おれだってプロだ。引き受けた仕事はこなそう」
「本当ですか?」
急に瞳を輝かせる。
さっきまでのしょんぼりはどこに行ってしまったのだろうか?
呆れてしまう。
「本当だって。ここまで来て断れないだろう?相手は変人とは言え、世界のマエストロなんだから……」
圭は手元においてあった企画書を取り上げる。
『関口親子の競演。世界のマエストロVS天才ヴァイオリニスト』
それが企画のタイトルだ。
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