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63.引越し7
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「だって、世の中はそんなに甘くないって星野さんが」
「あの人が甘くないだけだって」
確かに……と油井は納得して笑う。
「結局はやりたいことってうまくいかなくて。その内にどんどんやりたいことも変っていくんだろうね」
そして、ごしゃごしゃになって、どうしていいのか分からなくなったりもする。
それが今の蒼。
「うろうろして自分のやりたいことを一生かけて見つけるって言うのもいいのかも知れませんね」
「あんまりいい例ではないけどね~」
視線を合わせ、苦笑していると、ふと声が掛かる。
「なんだよ。二人でこっちにいたの」
キッチンの入り口には圭が立っている。
「いいの、いいの。二人でゆっくりしていたんだから」
圭はつまらなそうな顔をする。
「蒼がいないとつまんないんだけど」
「な、」
隣にいた油井は苦笑する。
蒼は油井と圭を交互に見てあたふたした。
「な、なに言ってんの!ちょ、ちょっと!」
こんな恥ずかしいことを平然と言ってのけるなんて。
ふと見ると圭の手には空の一升瓶が握られている。
酔っている様子。
そっと居間を覗くと、大騒ぎになっている。
「は~……。飲みすぎなんだけど!」
蒼は慌てて圭の背中を押し、居間に戻す。
そして大きな声で解散宣言をする。
もう宴会が始まって3時間だ。
よくもまあこんなに話すことがあるものだ。
今日は日曜日で、明日は仕事の人もいるだろうに。
いつまでもぐ~たら居座る気満々の星野に油井を預け帰らせる。
その内に尾形の妻が迎えに来たので、吉田も一緒にお願いした。
それから、タクシーを呼んで意気投合している桜と桃、そのオマケの宮内と野木を押し込む。
四人は桜の店で二次会だ!なんて張り切っていた。
そこに佐伯たち三人もくっついていくなんて言い出して、7人は嬉しそうに帰っていった。
一同が帰宅していくと、急に静かになった。
引越しで片付いていたはずの部屋も乱雑になっている。
掃除が苦手な蒼だ。
片付けをしようと思ったけど、諦めた。
酔っ払って眠り込んでいる圭を見つめて苦笑する。
「大人なんだか、子どもなんだか」
夏が目の前と言ってもまだまだ寒い季節。
開け放たれていた窓を閉め、ソファの上の彼に毛布をかける。
むにゃむにゃして寝返りを打つ圭を見つめて蒼はため息を吐いた。
「贅沢言わないよ。おれの人生は圭がいてくれるだけで幸せになるんだから」
じっと彼を見つめて、そしてけだもを呼ぶ。
「けだも!こっちで寝よう。圭は放置、放置」
電気を消し、自分は新しい寝室に向かう。
蒼の声にキッチンでごそごそやっていたけだもは駆けてきた。
そして、一緒に寝室に入る。
今日からこの家にお世話になるのか。
「よし。早く馴染もうね……ってか。けだもは馴染んでいるのか」
ベッドの上で毛繕いをするけだもを見つめ、蒼は苦笑するばっかりだった。
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