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64.日々勉強4
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「だから。ショルは細かいんだよ。一々。記号とか、楽譜の一つ一つを指示してくる。機械みたいで息苦しくなるときがある。だけど、そういう彼のやり方だからいい音楽ができるんだけどさ」
「そうだな」
「でも父さんは感覚で話をしてくれるから。イメージを掴まえるまで苦労するけど、きっと合致したらうまくいくと思う」
圭は考えてくれているのだ。
圭一郎はそう思った。
彼は自分の音楽作りを理解しようとしてくれている。
それもまた、嬉しいことの一つだ。
「お前と同じものを目指してやれるのは嬉しいことだ。ソロと一緒にこうして思うことを話し、音楽が作れると言うことは音楽家冥利に尽きるな」
「そうだよね。そうかも。おれもよかった」
笑顔を作り、なごやかなムードになったものの、圭は我に返る。
「は、なにしてんだ。おれ。危うく騙されるところだった」
「え?」
「いやいや。こっちの話。あんたのペースに巻き込まれるところだった」
「ちぇ。せっかく父さんって呼んでくれていたのにい~」
ぶ~っと圭一郎は唇を尖らせた。
「先生。そろそろ後半の練習を再開しますか?」
競演予定の室内楽団コンマスの小林が顔を出す。
「そうだね。さっさと終わらそう。時間通りやらないと有田に叱られる」
「時間通り動いたことがない癖に。なにそれ。いつもはちゃんとやっているから今日もやらなくちゃ、みたいな言い草は」
「冷たいね~。いつもやっているじゃない。なるべくロスのないようにさ」
「あんたの時間に関するルーズさだけは折り紙つきだからな」
圭はヴァイオリンを抱えて立ち上がる。
「小林さん。宜しくお願いします」
「はいはい」
親子の会話に苦笑していた彼女はいつまでも笑いながら席に戻る。
客席で話し込んでいた二人。
圭がステージに上がる直前、有田がやってくる。
そして、圭一郎に釘を刺した。
「いいですね。練習は20時きっかりで終了してください。いつも言っておりますが、早く終わる分には一向に構いません。21時の飛行機に間に合いませんから。それだけは厳守してください」
「は~い」
つまらなそうに圭一郎は返答をする。
こうして有田のおかげでスケジュールをこなせているようなものだ。
世界の売れっ子は引っ張りだこだ。
子どもの頃から見ているが、彼のスケジュールは数年先まで埋まっているのだ。
今回みたいに、飛び入りで入った仕事を受けるなんて珍しいことなのだ。
有田が骨を折って調整したに違いない。
そういえば、さっきの休憩のときに来年の星音堂文化祭の出演を勝手に決めて!と怒られていた。
これから調整するのは至難の技だろうに。
しかし、不可能を可能に出来るからこそ、彼はこうして世界のマエストロのマネージャーをこなしているのだ。
ふと視線を向けると、有田にくっついて勉強でもしているのか。
高塚がなにやらメモを取っている姿が見られた。
「おれもお前もまだまだってところだな」
圭はおかしくなって苦笑した。
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