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66.スコア2
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「ただいま~!!!」
玄関を勢いよく開け、中に駆け込む圭。
スーツケースを引っ張りつつ高塚も続く。
普段だったらこうして彼がここまでついてくることは稀だ。
しかし、今日は特別。
圭は軋む廊下を駆けていく。
途中で、居間からけだもが嬉しそうに顔を出した。
「けだも!ただいま~!」
「にゃ~」
けだもを抱き上げ、そして圭は室内を見渡す。
「蒼は?けだも。蒼は?」
「にゃ~」
けだもはぴょんっと圭の腕から降りると、居間を横切り、そして縁側から外に出た。
それに続いて庭を覗くと、そこには蒼がいた。
ぼけっとして、庭に一本大きく陣取っている木を見上げていた。
「蒼!」
圭が声を上げると、彼はけだもと同じく、嬉しそうな顔をして振り返った。
「お帰り!圭」
「わ~!!!!蒼だ!蒼だ!!!」
彼は、靴も履かずに庭に飛び出し、蒼を抱き締める。
「な、なに?なに?」
「なにじゃないよ!いいの!このまま」
ぎゅうぎゅうにされて圭の顔も見えない。
やっと追いついた高塚は苦笑して、荷物を奥に運ぶ。
遠慮してくれているのだろう。
「圭……」
「落ち着いた。蒼が休みでよかった。それじゃなきゃ星音堂まで行っているところだった」
「それはやりすぎでしょう?おれはどこにも行かないよ」
蒼に促されて室内に入ると、高塚が勝手にお茶を入れていた。
「あれ!高塚くん。ごめん」
「いや~。勝手にすみません」
「高塚くんが来ているならそう言ってよ。圭は気が利かないんだから」
「そういうなよ~。蒼に逢えて満足だったんだから」
高塚の入れたお茶でほっとする三人。
「それにしても珍しいね。高塚くんがここに来るなんて」
「今度の仕事の打ち合わせがあるからね」
「仕事?」
蒼は瞬きをして圭を見る。
彼は嬉しそうにお茶を飲んでいた。
「そうなんだよ~。ここ地元での仕事第一号だよ」
「そっか」
地元での仕事と言うのは格別なものなのだろう。
「どんな仕事なの?」
「リサイタル」
「すごいね。あ、今度はおれ見にいけるね。お父さんとの時は見に行くことができなかったし」
「そうだな。蒼が来てくれるなら、なお張り切れる」
「圭くんの頑張る活力源は蒼くんだからねえ」
蒼は苦笑する。
圭の人気と共に忙しくなる仕事。
国内、海外、あちこち演奏をしに行って、家を不在にすることも多い。
それが寂しい気持ちもあるけど、蒼にはそれを邪魔する権利はない。
星野に言われた言葉も心に引っかかるし。
いろいろごちゃごちゃ気持ちが混乱しているので複雑だけど、とりあえずよろこんでおくことにする。
「で、どこで打ち合わせするの?」
「駅の近くのホテル」
「そう」
「あ、そろそろ行かないとだよ。圭くん」
高塚は腕時計を見て慌てて立ち上がる。
本当だったら家による時間なんてなかったのだろう。
圭のわがままで蒼に一目逢ってからと言う手はずになったらしい。
「いってらっしゃい」
蒼に見送られて、二人はあわただしく出て行った。
それを見送ってから、蒼は足元に来ているけだもを見下ろす。
「は~……」
ここに引越しをしてからの蒼の気持ちは不安定。
圭がいてくれるから幸せ。
そう思っている自分が不安定である気がするのだ。
もう彼なしの生活は考えられない。
そのせいで、圭が不在のときは塞ぎこんでしまうことが多いのだ。
依存していると言ってもいいかもしれない。
今の自分は彼があってこそなのだ。
もしも、圭がいなくなってしまったら?
きっと自分の人生にはなにもなくなってしまう気がする。
なんのために生きているのだろう?
自分は。
家族もないし。
圭だけだ。
自分の存在を価値あるものにしてくれる存在は。
そう思うと、この状況が恐いのだ。
足元が覚束ないその不安。
圭といるときは忘れられるその不安も、こうして一人になってしまうとむくむくと大きくなる。
『ずっと一緒にいるのが恋人かよ?離れていてもお互いを思いやれる。それが恋人って言うもんじゃねえか』
星野の言葉。
それはそうなのだ。
頭では分かっている。
だけど、側にいて欲しい。
自分も側にいたい。
そう思う気持ちだけは抑えられそうになかった。
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