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68.置いてきぼり1
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「蒼?誰?それ」
「知らない。蒼なんて人」
耳に入るその言葉は刃物みたいに心を傷つける。
痛い。
苦しい。
「ああ。あの嫌な子」
「あの子のせいで関口圭は世界に羽ばたけないんだよ」
「もったいないね」
「素敵な音楽家なのに」
それは。
おれもそう思う。
素敵な音楽家だもん。
だけど。
やっぱり自分のせい?
星野の声。
「あいつは子どもの頃から音楽一筋なんだ。邪魔しないでやってくれよ」
邪魔?
圭一郎の声。
「蒼。圭のことを思うならもっと自由にさせてあげてくれないか?音楽家は自由に生きたいのだから」
おれが?
自分が彼を縛っている?
自分は今まで陽介に縛られていた。
それと同じことをしてしまっているの?
ひどい。
ひどいことをしていたのだ。
悪い人間だ。
自分は。
彼の夢を奪う存在なのだ。
油井と話した。
夢の話。
自分は圭に出会えて、彼がいるこの世界がいいと思った。
だけど、圭の幸せは?
自分のことばっかりでいいの?
いけない。
そんなの。
いけない。
ダメだ。
圭の側にいちゃダメ。
忘れてもらわないと。
自分のことなんて。
目を開いて手を伸ばしても辺りは暗闇。
苦しくもがく。
助けて。
どうしていいのかわかんないよ。
もう。
どうしようもない。
荒い息を吐いて瞳を開けると、見知った顔にビックリした。
「っ!?」
「おい。お前……蒼だよな?蒼?」
だるい身体を起こそうとするが力が入らない。
もたもたしていると男が手を差し出した。
「ほれ」
「……」
手を掴まれて引っ張られる。
ぐったりしていた。
「なんだって、また。こ汚いなあ」
目を擦って男を見る。
男は。
「野木さん」
「野木さんじゃないよ。なにしてんだよ。まさかとは思ったけど。どうしちゃったの?関口がお前のことを探していたぞ?」
圭が……。
「逢いたくないんです……」
なに言っているんだろう?
自分。
「なに?なになに?喧嘩?家出少年か。お前は。ホームレスかと思ったんですけど?」
「……」
彼の問いに答える気力もない。
あの家を出て何日なのかも分からない。
蒼はそのまま、そこの公園に住み着いていた。
季節が夏を目の前にしていると言うこともあって、屋外でもなんとかいたらしい。
「よくもまあ、こんなところで寝ておまわりさんに見付からなかったこと」
野木は買い物の途中だったのか。
買い物袋を片手に蒼を立たせる。
「ともかく。こんなところにいるな。いくら男だって危険だぞ。なにかに巻き込まれたら大変なんだから」
「もういいんですよ。どうせ」
「なに投げやりになってんだよ?ともかく来いって」
ぐだぐだしている蒼を引っ張って野木は暗い夜道を歩いた。
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