アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
71.憂鬱な旅1
-
憂鬱な旅ほど酷いものはない。
飛行機を乗り継いでやってきたロンドン。
空港に出迎えてくれたレオーネ=ピゼッティは圭を見つけて首を傾げた。
『圭?圭なのか?』
『そうですけど』
ぼけっとしている圭は上の空。
代わりに同行した高塚が返答する。
『どうしちゃったの。しばらく会わない内に。グランプリになって多忙なのか?』
ざわざわしている空港内は騒がしくて必然的に声が大きくなる。
圭は顔をしかめてレオーネを見た。
『うるさい』
『うるさいじゃないだろう~!相変わらず無愛想なヤツだな』
喧嘩になりそうな雰囲気に慌ててレオーネを連れ出す。
高塚は必死だった。
『すみません。あの、圭くん。蒼くんとちょっと……』
『え?』
『逃げられたんです』
『え?』
『だから、逃げられたんですってば!』
大きな声を出してからはっとする。
振り返るが、圭は相変わらずぼーっとしてその辺を見渡している。
『逃げられたって?』
『蒼くん。家出しちゃったんです。喧嘩って訳じゃないと思うんですけど。理由もなにも分からないから、ああしてちょっと変になっていて』
レオーネは肩を竦めた。
『本当に精神的にお子様だな』
彼はそのまま圭のところに歩いて行く。
そして彼の首に腕を回した。
『な、やめろって』
『そう嫌がるなよ~。今日からしばらくは同行して演奏会だ。仲良くしてくれよ』
蒼以外の人間との接触は好まない。
圭はもがく。
しかし、身長は大差なくても、体格が違いすぎる。
精神的疲労に、体力の疲労。
もがくのも疲れた。
圭は諦める。
大人しくなった彼を見て、レオーネは豪快に笑った。
『おいおい。おれを負かした男だろう?しっかりしてくれよ』
『レオーネ』
『おれはあのコンクール以来、猛烈に勉強したぜ?蒼に現を抜かしていたお前のことなんか、今回の演奏会で見返してやるからな!』
そんなこと言われても。
圭は言葉に窮する。
『はっきりしないやつだな。これだから日本人は……』
『だから。日本人とか区切るなよ』
膨れる。
そして言葉を続ける。
『お前になんか負けない。今回の主役はおれだからな』
ふんっと視線をそらす。
『少しは圭らしくなったじゃないか』
レオーネは苦笑して、それから彼の荷物を取り返す。
『ほれ。ホテルまで案内してやるさ。あいつがお待ちかねだぞ』
『あいつ……?』
大柄な彼は高塚の荷物まで軽々と抱えて空港を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
534 / 869