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77.二人の関係1
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星音堂でのリサイタルは圭にとったら、とっても刺激的な出来事だった。
またやりたい。
終わったその瞬間にそう思えた。
事務のみんなも、こっそり聞きに来てくれたようで、帰りに声をかけられた。
花束までもらって。
花束はたくさんもらったけど、一番嬉しかったのは星音堂のみんなからもらえたことだった。
(その前に色々と一悶着があったが……)
事務室でのミニコンサート。
この町を離れるまではここが自分のホームグランドだった。
小さいホールである。
それでも演奏をして、聞いてくれる人がいることは、音楽家としてこの上ない喜びだった。
いつかは大きなホールで。
一人だけのリサイタルを開く。
それが一番の夢。
その夢が叶ったのだ。
コンクールで優勝したことよりもなによりも嬉しかった。
圭はいつまでも余韻に浸る。
そろそろ、気持ちを切り替えないといけない時期なのに。
次はゼスプリの凱旋ガラコンサートだ。
日本ではここ、星音堂で開催される。
また演奏できる。
それが嬉しい。
本当だったら、東京あたりで開催するのが筋なのだろうけど。
高塚が配慮してくれたのだ。
曲目はコンクールのファイナルで弾いたものと、翌日のガラコンサートで弾いたもの。
ショルティもレオーネもみんな来る。
どうなることやら。
いつ来るのだろう?
演奏会が1週間後だから……。
数日前かな?
「いってきます」
転寝の間、様々なことに思いを馳せていると、蒼の声が響いた。
仕事か。
圭はむっくり起き出して廊下に出る。
最近、仕事は落ち着いている。
高塚に言ってセーブしていると言うこともある。
彼は「稼げるときに稼いで、休めばいいのに」と言う。
だけど、そうは行かない。
蒼との時間も欲しいし、細く長くでいいのだ。
桜みたいに、完全燃焼であっという間に消えるのは自分らしくない。
そう思ったのだ。
「蒼~。今日は遅いの?」
ぱたぱたと走って玄関にたどり着く。
蒼はまだそこにいた。
間に合った。
「今日は日勤。圭は休みだっけ?」
「そう。今日はここで練習している」
「そっか。じゃあ、早く帰ってくる!」
曇りガラスの玄関から差し込む日差しに照らされて、蒼はいつも通りのお日様笑顔。
けだもは圭の横にお座りをして「にゃ~」と鳴いていた。
「今日は久しぶりに外食しない?」
「え!いいけど……」
そして、ちらっとけだもを見る。
「そうだった。けだもがかわいそうだね」
二人に見下ろされて、彼は不思議そうにしている。
けだもは大きくなった。
春先に拾ってきて、もう秋だ。
半年と言うのは猫にとったら随分な期間なのだろうか?
「やっぱりやめるか」
けだもの顔を見ていたら、とてもお留守番をさせる気にはならない。
圭は苦笑した。
「ごめんね。圭」
「ううん。いい。気分転換にって思ったけど、いいや。家で食べるのが一番いい」
「うん」
蒼の腰に腕を回して引き寄せる。
「気をつけてね」
「うん」
ぎゅ~っとしてから身体を離し、蒼は出掛けていく。
この瞬間が寂しいのだ。
けだもと二人、取り残された気分。
「いっちゃったな~。けだも」
「にゃ~」
背伸びをしながら居間に入る。
さて。
少し掃除をしてから練習でもするか。
まだ頭もはっきりしないし。
ソファに座り、ぼけっと庭に視線をやる。
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