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77.二人の関係2
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秋か。
庭に植わっている木は梅だったらしい。
側にある草花も秋一色だ。
早いものだ。
蒼と出逢って1年半が経とうとしているのか。
しばらくぼんやりして、このままいても埒が明かないと思う。
「どれ」
いつの間にか自分の隣で丸くなっているけだもを撫で、練習に立ち上がる。
自宅に備え付けられた練習室は圭にとったらメリットばかりである。
思う存分、練習が出来る空間。
柴田と顔を合わせなくなってしまったことは寂しいが、誰にも気兼ねなく練習が出来ると言うことがとっても魅力的だったのだ。
壁に囲まれた練習室。
入ってしまうと時間の感覚は薄れる。
いつまでも出て行かないと蒼が心配するので、時計は目に付くところに設置しているが、外と隔絶している環境と言うのは人間の体内時計を狂わせるものだ。
今日も、一頻り楽譜と睨めっこをして試行錯誤を繰り返していると時間を忘れてしまっていた。
はっと気が付いて時計に視線をやる。
もう午後の二時を回っていた。
「やばい」
お昼ご飯も食べていない。
けだもは大丈夫だろうか?
楽器を下ろして、そっと外に出る。
居間はぽかぽか陽気だった。
秋晴れ。
そんな言葉が適当であろう。
けだもは縁側のところで丸くなってお昼寝をしていた。
「よかった」
無我夢中になっていたせいで、身体の疲労を感じていなかったが、安心した途端、あちこちが痛む。
「ちょっと無理しすぎたかな?」
ぶつぶつ言いながらソファに腰を下ろす。
「は~……」
蒼はなにをしているだろうか?
二時?
午後の仕事が始まってうとうとしている頃かも知れない。
久しぶりに星音堂にでも顔を出してみようか?
ふと視線をやると、携帯が光っている。
着信のお知らせランプが点滅しているのだ。
「なんだ?」
防音部屋には携帯は入れない。
どっちにしろ圏外になってしまうからだ。
慌てて開いて確認する。
着信が7件も入っていた。
「はい?」
そんなに掛かってくるような用事があるようには思えないが……。
発信先はまちまちだった。
星音堂。
桜の店。
柴田の携帯。
どういうことだ?
星音堂にかけたいのはやまやまだが、誰が出るか分からないし。
かけてきたのが蒼とは限らない。
蒼だったら携帯でかけてくるはずだろうし。
星音堂は外そう。
桜の店にかけてみる。
数回のコールの後、出たのは乃木だった。
『おう!なにしてんだよ!お前!』
「なにしているって……。乃木さん、電話寄越しました?」
『寄越したもなにも、留守電に入れておいただろう?』
「あ、そうですか?」
留守電?
表示されていたっけ?
よく確認もしなかった。
『なんだか朝っぱらから、お前の居場所を探しているって変な外人が来たぞ』
「外人?」
『桜の名前も仕切りに言っていたんだけど……あいつ。ちょっと風邪で寝込んでいて。聞いてもなんだか埒が明かないんだ』
「桜さん、大丈夫なんですか?」
『今日、病院に連れて行くから……。それより、外人にお前の住所を教えておいたからな』
「ちょ、勝手に……」
『じゃあ、忙しいから。そうそう、桜も大変なんだ。暇なら手伝いに来いよ!』
一方的な乃木は電話を切った。
「なに?なにがどうなってんだ?」
意味が分からない。
外人って?
自分にそんな知り合いがいたか?
ショル?
まさか。
ガラコンサートは来週末だ。
さすがに、来日するには早すぎる。
いつの間にか、圭の隣に座っていたけだもが不思議そうに見ている。
険しい顔でもしていたのだろう。
苦笑して、彼の頭を撫でる。
「大丈夫だ。ごめんな。けだも」
さて、どうしたものか。
迎えに行く?
そう言っても、行き違いになったのでは話にならない。
そう考えると、ひたすらここで待っていたほうがいいような気がした。
「いいよな?けだも」
「にゃん」
迷子になったとしても、ここの住所を知っているのだ。
いつかはたどり着くに違いない。
ソファに寄りかかり、「は~」とため息を吐くと、玄関のチャイムがけたたましく鳴った。
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