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77.二人の関係5
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あれきりだ。
ブルーノとは逢っていない。
なにをしているのかも知らないのだ。
こういう世界だ。
なにか動きがあればお互いに耳に入ってくるようなものだが。
あえて彼の情報は避けていた。
ブルーノを思い出すと自分が惨めになるから。
『約束したのに』
レオーネはそう呟く。
『約束?』
彼の斜め前に座っていた圭。
彼が言葉を発したことで、自分は一人ではないと気が付いたらしい。
ぼんやり回想していたせいで圭の存在を忘れていた。
『そうだ。約束したんだ。ブルーノはおれを置いていかないって約束したんだ』
置いていかない?
置いていくとか置いていかないとか。
自分も蒼とのことで問題になった話題だ。
自分の場合、蒼はまったく別な世界に生きている人だから、なんとか歩み寄れた。
だけど、レオーネの場合、同じ世界にいて完全に決裂してしまうと修復は難しい気がした。
どうする気なのだろうか?
彼は。
ブルーノは。
ブルーノと言う男。
圭は数日しか関わりのなかった相手だ。
しかし、そんな軽く名誉を取る男には見えない。
『約束したんだったら信じるしかないんじゃないのか?』
『お前はそう言うけど……』
『だって、そうするしかないじゃないか。おれだってそうだ。蒼とのこと。もう終わるんじゃないかって思っていた。もうダメじゃないかって。だけど、蒼はちゃんとおれのことを考えていてくれたんだ。ただ、ちょっと気持ちがすれ違っていただけだ』
すれ違っていただけ。
そう。
そうなのだ。
お互いがお互いのことを思い過ぎてすれ違った。
『ブルーノにお別れを言われたのか?』
『え!?』
そう言われてみるとそうだ。
まだなにも言われていない。
一人で勝手にいじけていただけだ。
『えっと』
『ほらみろ。おれたちのときもそうだった。蒼が一人で勝手におれのことを心配してくれていなくなっちゃったんだ』
『蒼が……』
『そうだよ。ちゃんと話してみろ。あいつと。それから決めたっていいじゃないか。お前たちの仲はそんなもんじゃないんだろう?』
子どもの頃から一緒だった。
葡萄畑を駆け抜けて遊んでいた。
いつも暗くなるまで遊んでいたから、両親には随分怒られていたものだ。
ヴァイオリンを始めるって言ったとき、ブルーノもなにかするって泣いたんだっけ。
それで困った彼の母親が古いオルガンを出してくれた。
それが初めだった。
そこから、二人の音楽人生が始まったのだ。
一緒だった。
始まりも一緒。
楽器こそ違えど、ずっと一緒に音楽に関わってきた。
なにもかもが一緒だったのに。
今だってそうだ。
同じ世界に生きて、一緒なはずなのに。
心だけが遠くに行ってしまった。
『レオーネ。恐がるなよ』
圭の声で現実に引き戻される。
『恐がる?』
『そうだろう。恐いんだろう?ブルーノに嫌われるのが』
恐いのだろうか。
そうだろうな。
きっと。
ブルーノがなにか言おうとしていたのを遮った。
それはお別れの言葉を突きつけられるのではないかと直感したからだ。
逃げているのだ。
自分は。
『お前は蒼に似ているな』
『おれが?』
『そうだよ。蒼もそうだ。人の話を最後まで聞かないで、勝手に結末を予測して逃げていく。だけど、それは防衛反応だ。不自然なことでもなんでもない』
『そうなんだろうか』
『そうだよ。お前はお前。そういうタイプの対応をする人間だってことだ。なにも恥ずかしいことじゃない。だけど、いつまでも逃げていたってなにも始まらないじゃないか』
圭の言うことは正統論だ。
それは分かっているが。
『いい機会だ。お前たちを取り巻く環境が変わって、お互いがどう思っているのか。きちんと話し合う時期なんじゃないのか?』
『話し合う機会』
『そうだよ。おれたちもこの前がそうだった。ちゃんと話した。蒼も分かってくれたし。おれも蒼の気持ち、ちゃんと分かった』
じっと考え込むレオーネ。
彼がなにを考えて、どうするのかは分からない。
だけど、自分として伝えたいことを伝えたつもりだ。
圭はただじっとしてけだもの頭を撫でていた。
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