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84.暗闇7
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びっくりした。
桜には謎が多いことは知っている。
何故ヴァイオリンをやめてしまったのか?
この件について、蒼は聞いているが、圭は知らなかった。
それに、かおりや圭一郎との馴れ初めや関係性もよく分からない。
それから、星音堂の水野谷とも知り合いである。
知り合いと言うよりも旧知の仲と言う言葉が適切か?
それにゼスプリのときに伴奏をしてくれたミハエル。
彼とのことも気になるし。
桜の周りには男の影がたくさんあるのだ。
まさか、その一つに自分の父親も入っていたなんて……。
しかも、あの態度。
なんだか根深いものを感じずにはいられなかった。
「なんなんだよ。まったく」
圭はドキドキした。
圭一郎と言う男は天然だ。
彼は純粋に、今ではかおりのことだけを認めている。
しかし、育ちのいい彼は根っからのお坊ちゃんで、女性(かわいい男性も含む)に対する態度はジェントルマンである。
勘違いする女性は多々いるらしい。
昔、有田から聞いたことがある。
思うがままに行動した結果、勘違いをして日本まで追いかけてきた女性がたくさんいるとのことだ。
しかも、その女性たちは純粋に自分の音楽に感動してくれたファン程度にしか思わないらしく、優しくしてしまうので、余計に問題がこじれると嘆いていた。
有田も大変である。
ヤキモチ焼きのかおりが許すはずがない。
圭や朱里には見せない姿だが、昔から夫婦の修羅場は数え切れないほどあると言っていた。
彼はそういう問題にも否応なしに関わるのだから大変なことである。
そう言った、勘違い女性の中に桜も入っているのだろうか?
だとしたら大変なことだ。
無意識とは言え、悪意としか言いようがない。
女性は圭一郎に恨みを持つであろう。
そうなると。
もしかしたら、自分は彼の代わりに恨みを晴らされているのかも知れない。
桜に苛められるのもそういう理由であるとすれば、なんとなく頷けた。
「だって、おれ悪いことしてないじゃん」
大きくため息を吐いて、視線を上げると。
星音堂の目の前までやってきていた。
自然に足が向くとはこういうことだ。
蒼が気がかりだった。
桜の言葉が気になったのだ。
『また家出しちゃうかもよ~?蒼』
『あらら?そんな自信はどこから来るのかしらね?』
本当だ。
どこから来る自信なのだろうか?
蒼が出て行ってしまったら。
自分にはなにも残らないじゃないか。
すがるものが欲しかった。
蒼さえ居ればいい。
音楽は。
音楽がなくなってしまったら?
そんなの関係ない。
自分の半身がなくなってしまうことくらいどってことない。
それは別な形でも再生できるものなのだから。
それよりも、なによりも。
失ってしまったらもう、手に入らないかも知れない彼のことのほうが気がかりだった。
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