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84.暗闇11
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また夢を見た。
暗闇をうろうろしている夢だった。
まただ。
もう嫌になるくらい、この夢を見ていた。
最初はショックだったけど、もう慣れた。
どうせ、自分はこの暗闇を漂う羽目になると言うことなんだろう。
もういいよ。
分かったから。
自分の出来ることをやるって決めたんだから。
だけど、どうしてこの闇は晴れないのだろうか?
自分の決心が足りないのだろうか?
それはそうだ。
本当のことを言えば、心の奥底ではヴァイオリンを持てないことにもどかしい気持ちが捨てきれない。
桜に逢って、自分がこの間になにをすべきか気付いた。
安齋に逢って、自分がこの間にどういう姿勢をとるべきか気付かされた。
だけど。
だけど、やっぱり。
心のどこかでは焦りもある。
レオーネは、この間にもどんどん成長するに違いない。
ショルとも、もう一度競演したい。
治るって言うけど、治るのレベルだって分からない。
本当に以前のように弾けるのだろうか?
違和感が出るのではないだろうか?
考え出したらきりがない。
もんもんとする。
真っ暗闇で座り込んでしまう。
動けない。
なにからはじめよう?
なにをしよう?
音楽も出来ない自分にはなにが残るのだろう?
けだもの相手?
家事手伝い?
それだって左手が思うように動かないのだから、容易なことではない。
蒼に食べさせてもらって。
最低な男だ。
情けない。
音楽家と言うものは、本当にもろいものだと思った。
前に進みたい気持ちと、後ろに戻りたい気持ちとが葛藤を生む。
どうしよう?
どうしたらいいんだろう?
混乱してきたとき。
ふと、頭上から白い手が見えた。
前も見た。
暗闇に落ち込んだ自分を支えてくれるかのように伸びてくる手。
それに触れようとして手を伸ばす。
前のときは、触れる前に目が覚めてしまった。
だけど、今日は違う。
しっかりと握り締めると、それはほんわか暖かかった。
暖かい。
引っ張り上げてくれるそれ。
じっと目を閉じて、それから開くと、そこは光溢れる世界だった。
―大丈夫。
え?
―大丈夫だよ。
―圭。
優しい声に意識は引き戻される。
現実の世界で瞳を開けると、蒼が居た。
「圭?大丈夫?」
辺りを見渡す。
ここは。
寝室。
蒼はスーツ姿のままだった。
「蒼?」
「ただいま。今帰ってきたの」
そっか。
今日は仕事。
何時だ?
「6時になったところだよ」
圭がなにをしたいのか察したのか?
蒼はにっこり笑顔を見せて答える。
「おかえり。蒼」
「ただいま」
蒼の首に腕を回して引き寄せる。
こうしてくっつくのは久しぶりな気がした。
「圭も退院おめでとう」
「うん」
じっと蒼の感覚に浸る。
あの手は。
蒼だったのだ。
白い手の夢を見て、目が覚めると、いつもそこには蒼がいた。
「ありがとう。蒼」
「ん~?なにが?」
「ううん。なんでもない」
苦笑して身体を起こす。
「腕、どう?」
蒼はおそるおそる訊ねる。
圭にとって、腕の問題はデリケートだ。
触れてもいいものかどうか?
迷っているみたいだった。
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