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88.乱入者登場6
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「おれは自分を客観的に見ることが出来るからな。蒼とは違うの」
「ぶ~!大人ぶっちゃってさ!」
ぶうぶう言いながらも食事はしっかり始めるところが蒼らしい。
圭はいつまでも笑っている。
「そういうねえ、『自分だけはしっかりやっています』みたいな態度は集団生活を乱す原因になるんだからね」
「蒼の説教が始まった」
「また!話は途中でしょう?」
「蒼は年寄りくさくなってきたね」
「圭!」
もごもごしながら怒っても説得力がない。
注意散漫でいたせいで、隣から手を出したけだもに気が付かない。
圭は見ていたけど、あえて黙っていた。
面白そうだから。
案の定、けだもは素早い動作でひとかけらの魚をテーブルから落とすと、咥えて逃げていった。
「あ!けだもッ!!」
蒼の怒りの動作なんて、けだものそれから比べたら随分、のろいものだ。
慌てて掴まえようとしても、彼はすでに廊下まで逃げていっている。
「もう!圭もけだもも、おれのことバカにしてさ」
半分いじけている蒼はかわいい。
箸を止め、にやにやして蒼を見る。
「なんだよ~!けだもに魚盗られてまぬけ、とか思ってるんでしょう」
「そんなことない」
「じゃあ、なにさ」
「いや」
ぷんすかしている彼の口元についたご飯粒を取って、圭は笑う。
「かわいいなと思って」
一瞬、顔を赤くする蒼だけど、はっと気が付いて更に怒り出す。
「ほら!またバカにして」
「バカにしていないじゃない」
「じゃあなに?」
「だから。素直にかわいいと思ったからかわいいと言ったまでだって」
「……」
半分照れているのだろう。
蒼はそれ以降、黙って食事を続けていた。
年上なんだよな?
圭は思う。
彼の行動の全てが、圭にとったら魅力的なのだ。
かわいい子どもに対して、目に入れても痛くないと言う言葉があるが、最もだと思う。
蒼にだったら、なにをされてもいい。
そんな気にもなる。
「圭?冷めちゃうよ」
蒼を見ているだけでお腹いっぱいだ。
圭は魚を取り出す。
「ほら。おれのも食べていいよ」
「え!」
「けだもに取られてヘソ曲げているんだろう?」
「でも……」
でも、とはいいつつ、視線は魚に釘付けだ。
欲しいと言う意思表示である。
箸でそれを皿の上に乗せてあげる。
「食べな」
「あ、ありがとう!」
蒼は単純だ。
食べ物をくれる人はいい人だと思うらしい。
ひもじい子みたいだ。
「早く食べて練習だろう?今日は王子様のところ、ばっちり覚えておいたから。一緒に付き合えるよ」
「本当?」
圭はすごい。
いくら時間があるとは言え、あの難解な楽譜を読み解き、シンデレラパートを含め、全部のパートを暗譜しているのだから。
蒼のほうが楽譜を見て練習していると言うのに。
圭は楽譜なしで、蒼の練習に付き合ってくれている。
ヴァイオリンではない専門外でもここまで出来るのだ。
素人なんて、本当に足元にも及ばないと思う。
蒼はおかずが増えたので、ご飯のお代わりに立つ。
食べないとやりきれない。
世界のマエストロとの競演だ。
頑張らないと。
そう思った。
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