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89.灰かぶり姫2
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今回の伴奏は明星オケから引っ張られたプロの演奏家たちだった。
去年は圭が率いる市民オケの面々だったが。
夕方になると、まずはアンサンブルチームが顔を出した。
先頭にいるのは宮内。
「蒼!」
彼は嬉しそうに手を振る。
彼に会うのは久しぶりな気がした。
「宮内くん」
「今回は宜しくな」
「うん」
彼とも久しく会っていない。
引越しのとき以来だろうか?
「元気してたの?」
「うん。桃と一緒に東京に移り住んだんだ」
「へ?」
聞いていない。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!」
自分たちの引越しのときはお世話になったのだ。
引越し祝いでも出さなくちゃいけない立場なのに……。
「桃も東京に拠点を移してプロとしてやってみたいって言うし。おれも、いつまでももこもこしていられないだろう?関口に出し抜かれちゃったしな」
「そんな……」
宮内は苦笑する。
「独り立ちってなかなか難しいし。関口みたいに才能もないしさ。おれはおれで出来ることをやることにした」
「出来ること?」
彼は頷く。
「明星オケのコンマスが引退することになって。それで、今回、コンマスの試験を受けたんだ」
コンマスになるには試験があるのか。
蒼には知らない世界だ。
だけど、コンマスって言ったら、オケをまとめる大切な役職だ。
ヴァイオリンのスキルだけじゃなく、人との関係をつくることも出来ないといけない立場だろう。
大変だ。
「それで。見事に合格したって訳」
「え?じゃあ、今回来たのって」
「そうそう。コンマスだから。代表でアンサンブルのお手伝い」
「そっか!!」
それはめでたい。
きっと圭も知らないことだろう。
本当に引越し以来は音信不通状態だったから。
宮内たちが引越しや試験で忙しい間、自分たちも色々大変だったのだから。
「お祝いしないとね」
「そうだな。打ち上げでもするか」
顔を見合わせて笑っていると、水野谷がやってくる。
「宮内くん。どうも宜しく。星音堂課長の水野谷です」
二人は初対面だ。
宮内も頭を下げた。
「こちらこそ。準備はしてきましたが、なにぶん未熟です。ご迷惑をお掛けしないように頑張ります」
「そんな。こちらは素人だ。お手柔らかにお願いします」
二人の挨拶を聞いていた蒼は笑う。
大変なのは大変だけど。
なんだか楽しくなってきた。
今年は圭に特訓してもらったせいか、去年よりはましだ。
「それでは、アンサンブルの方は第一練習室を取ってあるので、時間までそこで調整してもらっていいですか?」
「おれ、案内します」
蒼は事務室の外に居た、他のメンバーにも挨拶をして、第一練習室に案内をする。
始まるのだ。
今年の文化祭が。
ドキドキした。
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