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91.家族に病人がいるということ11
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「昨日、蒼から電話があって、早いうちに栄一郎さんたちがお見舞いにって言ってたぞ」
「そうか!」
かおりが持ってきてくれた氷を頬張りながら彼は嬉しそうに笑う。
これが10時間以上の手術を受けた男なのだろうか?
まったく後遺症もない。
食事も平らげそうな勢いだ。
元々、長丁場のオペラなんかもこなす男だ。
体力だけはバカがつくほどあったのだろう。
バリバリしていた圭一郎はふと手を止める。
「そうだ!」
「また変なことひらめいたの?」
圭一郎の「そうだ」はろくなことがない。
朱里は迷惑そうな顔をした。
「みんなで温泉に行こう!」
「はあ?」
栄一郎からどうしてそういう発想になるのだろうか?
「どういうこと?」
「約束していただろう。圭。家族旅行に行くって」
彼は圭を見る。
確かに。
約束していたが。
こんな形で実現するとは……。
「そうだったな」
「だろう?ちょうどいいではないか。栄一郎にわざわざこっちに来てもらうのもなんだし。おれたち家族があっちに言って、温泉に泊まりながら彼らに面会すればいいのだ」
「どうせなら一緒に泊まればいいんじゃないの?」
「おお!かおりはいいことを言う」
二人は盛り上がる。
「家族ってさ。あたしも行くの?」
「もちろんだ!」
朱里はえーっと言う顔をする。
「蒼もつれてきなさい。彼も家族なんだから」
「え!蒼ちゃんも来るの?なら行く」
朱里はなにが気に入ったのか、蒼の名前を聞いたら態度を一変させた。
このとんちんかん夫婦にみんなが巻き込まれている様が目に見えるようで面白い。
「有田さんも来てくれるでしょう?」
かおりの言葉にはストップをかける。
「おいおい。結局はめんどくさいことは有田さんにやらせようって魂胆なんじゃ……」
「そんなんじゃないわよ。有田さんは私たち家族も同様だもの」
とかいいつつ。
予約とか全部とってもらう気だ。
有田を見ると、彼は苦笑していた。
「嬉しいですよ。誘っていただいて」
「有田さん。迷惑なときは断ってもらっていいんですよ」
「いいえ。大丈夫ですよ。圭くん」
ベッドの上の圭一郎は一人で盛り上がっている。
こんなに騒いでいるのでは、退院を迫られるのも時間の問題だろうな。
蒼に電話しておかないと。
きっと熊谷家の皆様にも迷惑をかけることになるのだろうから。
今から謝っておこう。
圭はそう思った。
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