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95.蒼、大物に会う1
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その出会いは突然のことであった。
星音堂は関口圭一郎の復帰コンサートの準備で大忙し。
この話題が早めに巷に出回ったおかげで、チケットへの問い合わせが世界中から殺到した。
英語の話せる職員が対応をしていたが、それでは手が回らない。
それに便乗し、一度キャンセルした客が戻ってきたのだ。
世界のマエストロが認めたホールである。
星音堂は最低のホールから、世界最高級のホールにのし上がった。
みんながてんてこ舞いの中、水野谷も年度末で忙しいく動いていた。
彼は本庁に出張することが多く、1日に数分しか顔を見ない日もあった。
今日も14時から、圭一郎の演奏会の打ち合わせが関係者とあると言うのに、彼はまだ本庁から戻ってはこなかった。
「14時になったらどうするんです?」
心配している吉田は氏家に尋ねる。
「本当に。どうするんだろうねえ?」
「のんびりしている場合ですか。今日来るのは、羽根田重工の人なんですよね?」
吉田は高田に尋ねる。
「羽根田重工ってなんでもやってるんだな」
そこで口を出すのが三浦である。
彼は瞬時に携帯を開き、羽根田重工を検索する。
「羽根田重工は日本中の誰もが知る大企業グループです。身近なハンカチ一枚から果ては、戦闘機、自衛隊関係の武器、重機なども作っています。ただ、幅広く行なっている裏では、芸術家への支援なんかも積極的です。音楽や美術関係、スポーツ選手の育成、若い世代へのアプローチなんかも行なっているようです」
「すごいなー……」
「その羽根田が、今回のスポンサーな訳?」
尾形は三浦に尋ねる。
「羽根田としても世界的に有名なマエストロに関われることは誇らしいことでしょう。このサイトで言うと、なんとか芸術家への支援を広げて、武器を作っていることの悪いイメージを払拭したいようです。最近ではヨーロッパでもかなり力を入れて芸術家への支援を行なっているようですよ」
「ふうん」
蒼からしたら、全く関係のない話しである。
「すみませんーん」
みんなで話しこんでいると、受付のところに、長身の男がやってきた。
「このホールの中を見たいんですけど」
蒼はどっきりする。
金子の件があってから、トラウマになっているからだ。
だけど。
ここは勇気を出して。
いつまでも傷をそのままにしておくことは出来ない。
自分なりに、あれから勉強したではないか。
蒼はすっくと席を立つ。
「おい、蒼」
星野は心配そうにしているが、蒼は「おれ、行きます!」と勢い任せにカウンターに歩いていった。
「はい」
「あの、ちょっとこのホールの中を見せてもらうってことできます?興味あるから」
「どうぞ。職員の熊谷と申します」
蒼はぺこっと頭を下げ、相手が自己紹介しようとするのを遮って歩き出す。
緊張して、相手の言葉は耳に届かないようだった。
相手の男は苦笑して、蒼にくっついて歩いた。
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